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人月単価とは?相場の見方と、見積書の単価を他社と比較する手順

人月単価は1人が1か月稼働した分の費用ですが、単価だけを並べても比較になりません。役割定義・稼働率・参画期間・成果物・再委託・作業場所の6条件で正規化する手順と、厚生労働省の公的統計で確認できる水準、2026年1月施行の取適法で発注側が負うリスクをまとめました。

人月単価とは?相場の見方と、見積書の単価を他社と比較する手順

見積書に「SE 1名 6人月 単価90万円」と書かれていた。人月単価とは何を指す金額で、90万円は高いのか安いのか——この記事は、受け取った見積書の単価行を読み、他社の見積もりと比較できる状態にそろえるための手順書です。相場表を眺めて安心するのではなく、目の前の2枚の見積書を同じ土俵に載せることを目的にします。

この記事の結論|単価は「比較の入口」ではなく「前提をそろえた後の指標」

先に結論を書きます。

A社のSEが90万円、B社のSEが70万円だから B社が安い——この比較は、ほとんどの場合成立しません。 単価という数字そのものは正しくても、その数字が指している「1人月ぶんの働き」の中身が会社ごとに違うからです。役割の呼び名が同じでも担当範囲が違い、稼働率が違い、実際に手を動かす会社が違うことがあります。

したがって、単価を見たときの正しい反応は「安いほうを選ぶ」ではなく、「この単価の人は、どの工程の何を、どの稼働率で、何か月担当するのか」を各社にそろえて出させることです。そろえた結果として単価差が残るなら、それは初めて意味のある差です。そろえられないなら、その見積もりは金額の高低以前に、検証できない見積もりだと判断できます。

もうひとつ、先に押さえておきたい前提があります。役割別の人月単価には、業界横断で参照できる公的な統計が存在しません。 世の中の相場表は、公的機関が定めた基準ではなく実務上の観察値です。この記事では、どこまでが公的に確認できてどこからが慣習値なのかを分けて示します。

人月単価とは|1人月の数え方と計算式

人月・人月単価の定義

「人月(にんげつ)」は、1人が1か月稼働した作業量を1とする単位です。3人が2か月稼働すれば6人月、1人が3か月なら3人月と数えます。そして「人月単価」は、その1人月あたりにベンダーが請求する金額です。

費用のもっとも基本的な式は次のとおりです。

費用 = 工数(人月) × 人月単価 + 諸費用

たとえば必要工数が6人月で、平均人月単価が100万円なら、直接の人件費は600万円になります。ここにプロジェクト管理費や諸経費、ベンダーの利益が乗って最終的な見積総額になります。

「1か月」が何時間を指すかは、実は見積書に書かれていないことが多い項目です。公的な統計で確認できる定義としては、厚生労働省の労働者派遣事業報告書が「派遣労働者1人1日(8時間)当たり」を集計単位としています。1か月の営業日数を20日と置けば1人月は160時間という計算になりますが、この営業日数はベンダーによって設定が違うため、見積書の前提として確認すべき項目です。月の稼働時間の下限・上限(いわゆる精算幅)が契約書側で定められている場合もあります。

人月単価は「エンジニアの給与」ではない

発注側がもっとも誤解しやすいのがここです。単価100万円と聞くと、そのエンジニアが月100万円を受け取っているように見えますが、実際には単価には会社の間接費(営業・管理部門のコスト、オフィス維持費、教育費、採用費)と利益が含まれます。

この差は、公的統計で実際に確認できます。厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」は、派遣料金(派遣先が派遣元へ支払う対価)と派遣労働者の賃金を、それぞれ同じ「1人1日8時間当たりの平均額」で集計しています。

区分(情報処理・通信技術者)令和5年度令和6年度
派遣料金(1人1日8時間当たり・消費税を含む)33,387円34,382円
派遣労働者の賃金(1人1日8時間当たり)20,430円21,032円
(参考)全業務平均の派遣料金(消費税を含む)25,337円26,257円
(参考)全業務平均の賃金16,190円16,735円

出典: 厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」表6・表7(2026年3月31日公表・2026年8月31日取得)。速報値であり、確報で改定される可能性があります。

令和6年度の情報処理・通信技術者について、賃金を料金で割ると 21,032 ÷ 34,382 = 約61% になります(この割り算は本記事による計算で、原典に記載されている数値ではありません)。

ただしこの比率には注意が必要です。原典で「消費税を含む」と注記されているのは派遣料金だけで、賃金の側に消費税の注記はありません。 税率を10%と仮定して料金を税抜換算すると 34,382 ÷ 1.1 = 31,256円となり、21,032 ÷ 31,256 = 約67% です。どちらで見るかによって6ポイントほど動きます。

いずれにせよ、発注側が支払う金額と、働く人が受け取る賃金の間には3〜4割の開きがあるということです(税込の支払額を基準にすると約39%、税抜換算でも約33%です)。その中身は消費税、社会保険料の事業主負担、会社の間接費、そして利益です。原典は賃金の内訳を定義していないため、この統計だけでは内訳の比率までは分かりません。

この開きを知っておくと、「単価を叩けばその分だけ安く発注できる」という発想が危ういことが分かります。単価を下げたときに削られるのが間接費・利益なのか、それとも配置される人の経験水準なのかで、結果はまったく違うからです。

適用範囲の注意: この統計は労働者派遣(派遣契約)についてのものであり、受託開発で使われる請負契約・準委任契約の人月単価そのものではありません。契約形態が違えば、成果物責任の有無や指揮命令関係が変わり、価格構造も変わります。ここでは「単価と賃金の間にどれくらいの開きがあるか」を公的に確認できる、もっとも近い隣接統計として参照しています。また、この派遣料金は消費税を含む額で、日雇派遣労働者を除きます。平均の取り方も原典で分かれており、全業務平均は各業務の単純平均、職種別の値は各事業所の単純平均です(いずれも加重平均ではありません)。

契約形態そのものによる見積書の読み方の違いは、請負と準委任の違いは見積書のどこに出るかで扱っています。

役割別の人月単価レンジと、その数字の出どころ

役割別のレンジ(実務上の観察値)

人月単価は役割によって大きく異なります。プロジェクトを統括するPMやテックリードと、実装を担うプログラマーでは、求められる経験と責任が違うためです。下表は国内受託における代表的な人月単価レンジの目安です。会社規模・地域・スキル・案件の難易度で動くため、あくまで幅として捉えてください。いずれも消費税抜きの金額として記載しています(前章の派遣料金は税込なので、そのまま並べて比較できません)。実際の見積書の税区分は必ず確認してください。

役割人月単価レンジ主な業務単価が動く要因
PM(プロジェクトマネージャー)100万〜160万円進行管理・要件調整・リスク管理統括する規模・顧客折衝の重さ
上級SE・テックリード100万〜150万円アーキテクチャ設計・技術判断採用技術の希少性・難易度
SE(システムエンジニア)80万〜120万円設計・実装・テスト設計経験年数・対応領域の広さ
プログラマー60万〜100万円実装・単体テスト言語スキル・生産性
UI・UXデザイナー60万〜100万円画面設計・体験設計デザイン範囲・リサーチの有無
QA・テスター60万〜90万円テスト実行・品質保証テスト範囲・自動化の度合い

同じ「1人月」でも役割によって単価が倍近く違います。だからこそ、見積もりの工数配分(誰が何人月入るのか)が総額を大きく左右します。 上級人材を厚く配置すれば単価は上がりますが、難所を早く抜けて総工数が下がることもあり、単価の高低だけでは良し悪しは決まりません。

どこまでが公的に確認できるのか

上の表は実務上観察されるレンジを整理したものであり、公的な統計ではありません。この点は、単価を根拠に社内稟議を通すときに重要になります。

国内で開発の定量データを整備してきたIPA「ソフトウェア開発分析データ集2022」は、2022年9月26日公開で2004年から蓄積した5,546件のプロジェクトデータを扱っていますが、同ページには「事業終了に伴い『ソフトウェア開発分析データ集』の今後の発行予定はございません。」と明記されており、扱う指標も工数・工期・規模・生産性・信頼性で、人月単価は含まれていません。業界団体であるJISA(一般社団法人情報サービス産業協会)の基本統計調査も、公表されている調査項目に人月単価は含まれていません。

つまり、「役割別の人月単価の公式相場」という資料は、探しても存在しません。世の中の相場表が各社バラバラなのはそのためです。 本記事で公的に裏が取れるのは、前章の厚生労働省の派遣料金統計だけです(それも派遣契約の統計であって受託開発の単価ではありません)。稟議で単価の妥当性を説明するときは、相場表を根拠にするのではなく、次章以降の「自社案件の前提でそろえた比較」を根拠にするほうが通ります。各資料の格付けと適用条件は「根拠資料と適用条件」にまとめています。

見積書では人月単価がどう書かれているか

実際の見積書で単価まわりがどう書かれるかには、いくつかの典型があります。読み手が困る順に並べます。

見積書の書かれ方読み取れること読み取れないこと
システム開発費 一式 2,400万円総額のみ単価も工数も不明。分解単位が存在しない
開発作業 12人月 2,400万円平均単価200万円と逆算できる誰が入るのか。役割構成が不明
SE 12人月 単価100万円 1,200万円役割名と単価と工数SEの担当範囲、稼働率、期間、再委託の有無
PM 2人月/上級SE 3人月/SE 6人月/PG 8人月(各単価つき)役割構成と工数配分稼働率(専任か兼任か)、参画期間、成果物との対応
上に加えて体制表・稼働率・期間・成果物一覧が別紙にある比較可能な状態

上から3行目までは珍しい書かれ方ではありません。表記が粗いこと自体はベンダーの問題ではなく、多くの場合は見積書が要約されているだけです。 判断すべきは表記ではなく、分解を依頼したときに内訳が出てくるかどうかです。

なお、1行目の「一式」表記そのものへの対処は、見積書の「一式」を工程・成果物・工数へ分ける確認方法で個別に扱っています。この記事では、単価と工数までは書かれている見積書を前提に進めます。

実際に費用を生むのは、単価ではなく「単価 × 稼働率 × 参画期間」

見積書に書かれる単価は、通常1.0人月(専任フルタイム)あたりの金額です。ところが実際のプロジェクトで、全員が専任で入ることはむしろ稀です。PMは複数案件を掛け持ちし、上級SEは立ち上げ期だけ厚く入り、QAは終盤に集中します。

つまり、単価は「もし専任で1か月入ったら」という仮定の値段であって、そのまま実コストにはなりません。実際に効くのは次の式です。

実質の人件費 = 単価 × 稼働率 × 参画期間(か月)

具体例で見ます。単価130万円のPMが2社の見積もりに登場するとします。

A社B社
PM単価130万円130万円
稼働率1.0(専任)0.2(兼任)
参画期間3か月6か月
実質のPM費390万円156万円
プロジェクトが受けられる関与常時週1日程度

単価は完全に同額なのに、実質のPM費は2.5倍違い、関与の濃さはまったく別物です。 B社が安く見えますが、要件の揺れが大きい案件で週1日しかPMが入らないなら、意思決定の遅れが工期に跳ね返ります。逆に、要件が固まっていて実装が中心の案件なら、専任PMは過剰かもしれません。

どちらが正しいかは案件の性質で決まります。 重要なのは、見積書に稼働率と期間が書かれていなければ、この判断が最初からできないということです。単価だけが並んだ見積書を比較しても、比べているのは「仮定の値段」であって費用ではありません。

単価比較が成立しない6つの条件

単価をそのまま横並びにできない理由を、確認すべき順に6つ整理します。この6つは、そのままベンダーへの確認項目になります。

#条件何が違うと比較が壊れるか見積書のどこを見るか
1役割定義同じ「SE」でも担当工程と経験水準が会社ごとに違う役割名の定義書、担当工程の記載
2稼働率専任1.0と兼任0.2では実質の人件費が5倍違う体制表の稼働率欄
3参画期間同じ稼働率でも期間が倍なら費用も倍工程別スケジュールと要員計画
4成果物単価に対して何が納品されるかが不明だと検収できない納品物一覧、工程ごとの成果物
5再委託提示単価が実作業者の単価とは限らない再委託先の有無と担当工程
6作業場所オンサイト・リモート・ニアショア・オフショアで前提が違う作業場所と常駐条件の記載

1. 役割定義がそろっていない

同じ「SE」という肩書でも、A社では要件定義から設計・実装まで一人で担える中堅を指し、B社では実装補助が中心の若手を指すことがあります。役割の名前が同じでも担当範囲が違えば、単価を並べても同じものを比較したことになりません。単価が安く見えても、その分だけ上位役割の工数が別に積まれていれば、総額は変わらないかむしろ増えます。

2・3. 稼働率と参画期間が書かれていない

単価130万円のPMが稼働率1.0(専任)で入るのか、稼働率0.2でしか入らないのかで、同じ「PM単価130万円」でも意味がまったく違うことは前章のとおりです。そのうえで、稼働率は参画期間とセットで見ます。「上級SEが稼働率0.5で6か月」と「稼働率1.0で3か月」はどちらも3人月ですが、前者は設計から結合テストまで薄く伴走する体制、後者は設計期に集中投入して以降は離れる体制です。総工数が同じでも、後半に技術判断ができる人がいるかどうかが変わります。

4. 成果物と対応していない

単価×工数の合計が総額と一致していても、その工数に対応する成果物(設計書・テスト計画・テスト結果・移行手順書など)が定義されていなければ、検収の基準がありません。「何人月ぶん働いたか」ではなく「何が納品されるか」で受け入れるのが契約の基本です。

5. 再委託の有無が見えない

見積書に載っている単価が、実際に手を動かす会社の単価とは限りません。元請けが実装を協力会社へ再委託している場合、提示単価には元請けの管理コストとマージンが含まれます。再委託自体は業界で一般的な体制であり、それ自体が問題なのではありません。 問題になるのは、誰がどの工程を担うのかが見えないまま単価だけを比較して、単価と品質の対応関係を読み違えることです。品質管理の責任がどちらにあるかも合わせて確認します。

6. 作業場所の前提が違う

常駐(オンサイト)を前提とした単価と、フルリモート前提の単価、地方拠点(ニアショア)や海外拠点(オフショア)を使う前提の単価は、そもそも成り立ちが違います。常駐には交通費・滞在費が別途乗ることがあり、オフショアではブリッジSEの工数と翻訳・仕様伝達のコストが加わります。単価表の数字だけを見て「オフショアだから安い」と結論すると、ブリッジ工数と手戻りが見積もりの外に出ているだけ、ということが起こります。 見積書に作業場所と常駐条件が書かれているかを確認してください。

単価をそろえる正規化5手順

比較できる状態にするための手順です。この順に各社へ同じ質問を投げます。条件2と3(稼働率・参画期間)は同じ体制表で確認できるため手順2に、条件6(作業場所)は立替経費の確認と同時に聞けるため手順4にまとめ、6条件を5手順へ対応させています。

  1. 役割定義をそろえる。 各社に「この単価の人は、どの工程の何を担当し、どの程度の経験か」を確認し、役割名ではなく担当範囲で対応づけます。役割名の読み替え表を発注側で1枚作ると、以降の比較が楽になります
  2. 稼働率と参画期間を明示してもらう。 役割ごとに「何人が、どの稼働率で、何か月入るか」を出してもらい、単価 × 稼働率 × 参画期間 で実質の人件費に換算します(例: 単価130万円 × 稼働率0.2 × 6か月 = 156万円)
  3. 再委託の範囲を確認する。 どの工程を自社要員が担い、どの工程を協力会社が担うのかを聞き取ります。再委託がある場合は、品質管理の責任の所在も明らかにしてもらいます
  4. 作業場所と立替経費の扱いを確認する。 常駐の有無、交通費・滞在費が単価に含まれるか別途か、オフショアの場合はブリッジSEの工数がどこに計上されているかを確認します
  5. 総額と成果物で照合する。 正規化した人件費の合計が見積総額と整合するか、各役割の工数に対応する成果物が定義されているかを突き合わせます

この5手順を経て初めて、単価の高低を「同じ前提での差」として議論できます。逆に言えば、正規化に必要な情報の開示を渋るベンダーの単価は、安く見えても検証できません。

なお、この作業は相見積もりの一部です。SOW(作業範囲記述書)を発注側でそろえて各社へ同じ条件で依頼する進め方は、開発会社の見積もり比較ガイドにまとめています。単価の正規化は、その中の1工程だと考えてください。

見積書の単価行を4状態で判定する

正規化の結果は、ベンダーの良し悪しではなく見積書の状態として整理します。「高い/安い」の二択で判断しないための枠組みです。

状態判定条件次にとる行動
説明済み役割定義・稼働率・参画期間・成果物・再委託・作業場所がすべて確認でき、総額と整合する単価差を条件差として評価し、比較検討に進む
要確認単価と工数はあるが、稼働率や成果物の一部が未記載不足項目を個別に質問する。通常はこの段階で解消する
高リスク分解を依頼しても内訳が出てこない/再委託先が答えられない/成果物が定義されない契約前に解消する。解消しないなら金額の妥当性は判断できない
判断不能一式表記のみで単価も工数も無く、分解の依頼にも回答が来ない見積もりとして比較対象にしない。再提出を依頼する

「高リスク」は「悪質」という意味ではありません。 ベンダー側もまだ見積もれていない(要件が固まっていない)ために内訳が出せない、というケースが実際には多くあります。その場合に必要なのは値引き交渉ではなく、要件定義を分離した段階契約に切り替えることです。

安い単価の2つの落とし穴|抜けた工数と、取適法上のリスク

単価が他社より安いこと自体は、悪いことでも良いことでもありません。ただし発注側が見落としやすい落とし穴が2つあります。ひとつは工数側に何かが抜けていること、もうひとつは単価の決め方そのものが法令に触れることです。

落とし穴1|工数側に何かが入っていない

単価が安い見積もりを見たときは、工数側に何が入っていないかを必ず確認してください。総額が安くなる理由は単価だけとは限らず、次の工程が抜けていることがあります。

  • テスト工程: 結合テスト・システムテストの工数が計上されていない。単体テストのみで「テスト済み」としている
  • データ移行: 移行対象の抽出・変換・リハーサル・照合の工数が見積もりの外にある
  • セキュリティ対応: 脆弱性診断や権限設計が「別途」扱いになっている
  • PM・管理: 進行管理の工数がゼロで、発注側が全部を仕切る前提になっている
  • 本番移行・立ち会い: リリース作業と切り戻し手順の準備が含まれていない

これらは過小見積もりで、契約後に追加費用として現れます。単価が他社の提示より2割安くても、抜けた工程が後から3割の追加になれば意味がありません。単価の比較と同時に、工数の網羅性を確認してください。開発費用全体の内訳構造と、費用を左右する要因は開発費用の相場と見積もり妥当性の判断で解説しています。

落とし穴2|単価の決め方が取適法に触れる

単価を叩くことには、発注側にとっての法的なリスクもあります。ここは2026年に前提が変わった部分なので、少し丁寧に書きます。

2026年1月1日、下請法(下請代金支払遅延等防止法)が改正され、法律名が変わりました。 正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」、新しい通称は「取適法(とりてきほう)」です。用語も変更され、「親事業者」は委託事業者、「下請事業者」は中小受託事業者、「下請代金」は製造委託等代金になりました。

システム開発の外部委託は、この法律の「情報成果物作成委託」に該当し得ます。該当性は取引の内容と当事者の要件で決まるため、自社の取引が対象かどうかは個別に確認してください。プログラム作成の委託について、リーフレットの適用対象表は次の3つの基準を挙げており、いずれかに該当すれば適用対象です。

委託事業者(発注側)中小受託事業者(受注側)
資本金3億円超資本金3億円以下
資本金1千万円超3億円以下資本金1千万円以下
従業員300人超従業員300人以下

注意したいのは2行目です。自社の資本金が3億円以下でも、相手が資本金1千万円以下であれば対象になります。さらに改正で資本金基準に加えて従業員基準(300人・100人)が追加されたため、これまで対象外だった発注者が新たに対象になっている可能性があります。

取適法は委託事業者に4つの義務と11の遵守事項を課しています。単価の決め方に直接関わるのは次の2つです。

項目公正取引委員会リーフレットの記載
⑤ 買いたたき発注する物品・役務等に通常支払われる対価に比べ著しく低い代金を不当に定めること
⑪ 協議に応じない一方的な代金決定改正で新設中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定すること

⑪が新設された意味は小さくありません。改正により、代金の水準が「著しく低い」かどうか(⑤)に加えて、価格協議に応じて必要な説明をしたかどうかが、独立した遵守事項として問われることになりました。 相見積もりをとること自体や、その結果を踏まえて価格を協議すること自体が禁じられるわけではありません。問題になるのは、協議の求めに応じず、説明もしないまま一方的に単価を決める進め方です。

単価に関わるものとしてはもうひとつ、義務のひとつに発注内容(給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法)等を書面または電磁的方法で明示することがあります。合意した単価は口頭で済ませず、書面か電子メール等に残す必要があるということです。

出典: 公正取引委員会「取適法リーフレット No.01」令和7年8月(2026年8月31日取得)

発注側の実務としては、単価を下げる交渉をするなら「協議の記録と、なぜその金額かの説明」を残すことが、そのままリスク管理になります。単価をそろえて比較する作業は、この記録づくりとしても機能します。

なお本章は、公正取引委員会のリーフレットの記載を発注側の視点で整理したものです。個別の取引が適用対象に当たるか、特定の行為が違反に当たるかの判断は、弁護士等の専門家にご確認ください。

複数社の単価をそろえて確認する

前章までの正規化を手作業で行うと、各社の体制表を並べて突き合わせる手間がかかります。koromoでは、受け取った見積書のテキストから項目を確認できる複数見積もりを同じ条件へそろえて確認する見積書レビュー(登録不要)を公開しています。登録不要で、結果を見るまでメールアドレスの入力も必要ありません。テキストの抽出はブラウザ内で行い、送信前に内容を確認できます。

この記事の6条件と質問リストで受け取った回答を、そのまま貼り付けて使う想定です。診断結果は法的・会計的・技術的な最終判断ではなく、ベンダーへ次に何を聞くかを整理するためのものです。正規化した結果、単価が高いほうの見積もりを選ぶのが合理的、という結論になることもあります。

ベンダーへ確認する8つの質問

そのままメールに貼って送れる文面にしています。「金額を疑っている」ではなく「社内稟議と契約書別紙に必要」という立て付けにすると、通常の商習慣の範囲に収まります。

お見積りありがとうございます。社内稟議と契約書別紙の作成にあたり、以下について補足いただけますでしょうか。

  1. お見積りの各役割(PM/上級SE/SE/PG など)について、担当いただく工程と、想定されるご経験年数の目安をお教えください。
  2. 役割ごとに、何名が・どの稼働率(専任/兼任の別と人月)で・何か月ご参画いただく想定かを、体制表の形でお示しいただけますか。
  3. 人月単価の前提となる1か月あたりの標準稼働時間(営業日数・時間)と、稼働が上下した場合の精算方法をお教えください。
  4. 各役割の工数に対して、どの成果物(設計書・テスト計画・テスト結果・移行手順書など)が納品対象になりますか。
  5. 再委託の予定はありますか。ある場合、どの工程を協力会社が担当し、品質管理の責任はどちらが負うかをお教えください。
  6. 作業場所(常駐/リモート/拠点)と、交通費・滞在費がお見積りに含まれるか別途かをお教えください。
  7. 今回のお見積りに含まれていない作業があれば、その一覧をお教えください(結合テスト・データ移行・脆弱性診断・本番移行立ち会いなど)。
  8. 前提が変わった場合に再見積もりとなる条件と、その場合の単価の考え方をお教えください。

お手数をおかけしますが、社内の検討スケジュールの都合上、◯月◯日までにご回答いただけますと幸いです。

7番は単価ではなく工数の網羅性を確認する質問です。単価の比較だけを進めると抜けやすいので、必ずセットで聞いてください。

根拠資料と適用条件

この記事で使った資料と、その適用範囲を明示します。

資料格付け発行元年度・版本記事での使い方適用条件
令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報公的統計厚生労働省令和6年度/2026年3月31日公表派遣料金と賃金の水準・差速報値(確報で改定の可能性)。労働者派遣の統計で受託開発の単価ではない。派遣料金は消費税を含む額。賃金側に消費税の注記は無い。1人1日8時間当たり。日雇派遣を除く。全業務平均は各業務の単純平均、職種別は各事業所の単純平均
取適法リーフレット No.01一次資料(法令の解説)公正取引委員会令和7年8月2026年1月施行の改正内容、買いたたき・協議義務資本金/従業員基準に該当する取引が対象
ソフトウェア開発分析データ集2022公的機関の調査IPA2022年9月26日公開「単価データが公的に整備されていない」ことの根拠工数・工期・規模・生産性・信頼性が対象。単価は含まない事業終了により以後の発行予定なし
JISA基本統計調査業界団体の調査一般社団法人情報サービス産業協会2025年版同上発行元は受注側の業界団体。公表されている調査項目に人月単価は含まれていない
役割別の人月単価レンジ表慣習値目安の提示公的統計ではなく実務上の観察値税抜。公式相場として扱わない

すべて2026年8月31日時点で確認した内容です。金額はいずれも記載時点のもので、税区分は上表のとおり資料ごとに異なります。

よくある質問

まとめ

人月単価は、見積書のなかでもっとも比較したくなる数字であり、もっとも単独では比較できない数字です。要点を3つに絞ります。

  1. 単価はエンジニアの給与ではない。 厚生労働省の令和6年度速報では、情報処理・通信技術者の派遣料金34,382円(消費税を含む)に対し賃金は21,032円でした。支払額と賃金の間には3〜4割の開きがあります(派遣契約の統計である点、料金と賃金で税の扱いが揃っていない点に注意)
  2. 実質の人件費は「単価 × 稼働率 × 参画期間」で決まる。 単価が同額でも、専任か兼任かで実質の費用は数倍変わります
  3. 比較の前に正規化する。 役割定義・稼働率・参画期間・成果物・再委託・作業場所の6条件をそろえてから、単価差を条件差として評価します

そして、役割別の人月単価に公式相場は存在しません。 稟議で単価の妥当性を説明するときは、相場表を引用するよりも、自社案件の前提でそろえた各社比較を根拠にするほうが説得力があります。

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