不動産DXの事例と進め方|内見予約・電子契約・生成AIで業務効率化【2026年版】
不動産DXの事例を、内見予約・入居申込・IT重説・電子契約・生成AIの業務別に整理。プレサンスの年間約3,630時間の電話対応削減見込み、タイセイ・ハウジーの月1,000件超の電子申込、三井不動産の生成AI利用率63.8%などを公的機関や企業の公表資料で確認し、国土交通省とアットホームの調査、法改正の要点、ツールの選び方、年間予算別の始め方まで解説します。

不動産DXとは、物件の募集から内見予約、入居申込、重要事項説明、契約、入居後の管理までの業務をデジタルの仕組みに置き換え、電話・FAX・紙の往復を減らして、少ない人数でも取引を回せるようにする取り組みです。先に結論を書くと、2026年時点で成果が出やすいのは「内見予約」「入居申込」「電子契約」のように、会社の間で同じ情報を何度もやり取りしている業務です。逆に、業務の流れを決めないまま高機能なツールを入れると、アットホームの調査で約半数が挙げたように「操作・運用に慣れるまで時間がかかる」ところで止まりがちです。
この記事では、公表されている不動産DXの事例を業務ごとに並べ、国土交通省と業界団体・民間の調査で「どこまで進んでいるか」を確認したうえで、法律の要点、ツールの選び方、年間予算別の始め方、生成AIを使うときの注意点までをまとめます。各事例と数字には、確認に使った企業の発表や調査資料へのリンクを付けています。
本記事の情報について: 法令・制度は国土交通省と総務省の公開資料、事例は各社のプレスリリースと公開資料、調査は発表元の資料を2026年10月11日時点で確認した内容です。ツールの料金や機能、補助金の要件は変わりやすいため、導入を決める前にリンク先で最新の情報を確認してください。
この記事で分かること
- 不動産DXの意味と、2026年時点でどこまで進んでいるか(国土交通省・アットホーム・業界調査の数字)
- 内見予約・入居申込・電子契約・生成AIなど、業務別の公表事例と数字
- 宅地建物取引業法の改正で何ができるようになったか、IT重説との違い
- 自社に合うツールの選び方と、年間予算別の始め方
- 生成AIを物件紹介文や顧客対応に使うときの法的な注意点
不動産DXとは何か — IT化との違い
不動産DXとは、デジタルの仕組みで不動産取引の流れそのものを組み替え、顧客の待ち時間と社内の手作業を同時に減らすことです。単に紙をPDFにする、電話をメールに置き換えるだけの「IT化」とは、変える範囲が違います。
たとえば賃貸の内見予約を考えます。IT化だけなら、管理会社への電話をメールに変えるところで終わります。DXでは、仲介会社が管理会社の営業時間に関係なくWebで予約でき、鍵の情報もシステムで受け取り、予約の重複も起きない状態を作ります。アットホームが2023年に始めた「スマート案内予約」は、まさにこの形で、これまで電話やFAXでやり取りしていた内見申込の連絡と内見依頼書の送付をオンライン化するサービスです(アットホーム 2023年7月発表)。同社の調査では、30歳未満の社会人の約半数が「内見したい物件が見られなかった経験がある」と答え、理由に「元付会社と連絡が取れなかった(休日・営業時間外)」などが挙がっています。会社同士の連絡の遅れが、そのまま消費者の機会損失になっているわけです。
DXという言葉の定義や、全社で進めるときの組み立て方はDX推進の進め方で詳しく解説しています。不動産テックのサービスの種類を全体像から押さえたい場合は、不動産テック最新トレンド2026のカテゴリ整理が参考になります。
不動産DXはどこまで進んでいるか — 調査で見る現状
不動産DXの現状は「関心は高いが、実際の導入は2割前後」です。調査の対象によって数字が大きく違うため、誰に聞いた調査かをそろえて読む必要があります。
| 調査 | 対象 | 主な数字 |
|---|---|---|
| 国土交通省 令和5年度調査(不動産流通推進センターの資料より) | 宅地建物取引業者 | 直近1年でIT重説の実績がある 11%(導入済みまで含めると 18%、導入予定なし 70%)。書面の電子化の実績がある 5%(導入済みまで含めると 11%、導入予定なし 73%)。売買より賃貸のほうが進んでいる |
| アットホーム「不動産DXに関する実態調査2025」 | アットホーム加盟の不動産会社 1,171社(2025年1〜2月) | DXに取り組んでいる 13.4%、検討中 41.8%。DXツールを導入している 22.6%。導入したツールの効果を実感 8割以上 |
| 「不動産業界のDX推進状況調査2025」(GA technologies ほか不動産テック7社と全国賃貸住宅新聞) | 不動産関連事業に従事する 1,286名(2025年7〜8月) | DXを推進すべき 98.6%、取り組んでいる・予定 68.0%。取り組んだ人の 76.2% が効果を実感 |
出典は、国土交通省の数字が不動産流通推進センター 2025年2月25日資料、アットホームが同社の調査結果、業界調査がGA technologies 2025年9月25日発表です。
数字の差は、回答者の違いで説明できます。国土交通省の調査は宅建業者全体、アットホームは加盟する不動産会社(会社単位)、業界調査は不動産テック企業とメディアが集めた個人の回答で、DXに関心のある人が多く含まれやすい構成です。自社と同業の平均を知りたいときは国土交通省とアットホームの数字、DXを進めている会社の実感を知りたいときは業界調査の数字、と使い分けるのが安全です。
目的は「業務効率化」、壁は「知識」と「予算」
DXを始める目的は、どの調査でも業務効率化が1位です。アットホームの調査では「社内の業務効率化・生産性向上」が50.9%、業界調査では「業務効率化」が92.9%でした。
一方で、取り組まない理由も共通しています。アットホームの調査では、取り組む予定がない会社の33.6%が「DXに関する知識や経験が不足しており、取り組み方が分からない」と答え、「社内に人材がいない」「予算がかけられない」も3割を超えました。業界調査でも、取り組む予定がない人の48.6%が「予算が掛けられない」、22.1%が「取り組み方がわからない」、21.3%が「社内に人材がいない」を挙げています。
予算の実態も確認しておきます。アットホームの調査では、DX推進の年間予算が「10万円未満」の会社が53.9%、「10〜30万円未満」が26.1%で、約8割が30万円未満でした。業界調査でも69.6%が年間100万円以下と答え、50万円以下と答えた人のうち80.8%は従業員10名以下の会社でした。中小の不動産会社にとって、DXは「大きなシステム投資」ではなく「月数万円までのクラウドサービスをどう組み合わせるか」の問題だと分かります。
業務別に見る不動産DXの事例
不動産DXの事例は、業務ごとに分けて見ると自社に当てはめやすくなります。下の図は、取引の流れに沿って業務を並べ、使われる仕組みと公表されている数字を対応させたものです。
業界調査で導入中・導入進行中の割合が高かったのは「賃貸管理システム/不動産基幹ソフト」45.9%、「入居申込システム」43.8%、「内見予約システム」38.8%、「電子契約システム」34.1%でした。満足度(とても満足・まあまあ満足の合計)は、内見予約システム 80.9%、入居申込システム 79.6%、AI査定システム 79.4%、電子契約システム 77.9% の順です。ここからは、業務ごとに公表されている事例を見ていきます。

物件確認の電話を自動応答にした事例 — プレサンスコーポレーション
賃貸管理会社には、仲介会社から「この部屋はまだ空いていますか」という物件確認の電話が大量にかかってきます。プレサンスコーポレーションは2019年6月、空室確認の電話に自動で答える「ぶっかくん」と、入居申込をWebで受け付ける「申込受付くん」(いずれもイタンジ)を導入し、年間約3,630時間の電話対応業務を減らせる見込みだと発表しました(プレサンスコーポレーション 2019年6月4日発表)。
同じ資料で、提供元は仲介会社からの空室確認の電話が管理会社の受電の約半数を占めると説明しています。これは提供会社側の説明なので、自社で同じ効果が出るかは、まず1か月分の受電を「空室確認」「内見の鍵」「申込の状況確認」「その他」に分けて数えてから判断するのが確実です。3,630時間は発表時点の見込みで、導入後の実績値ではない点にも注意してください。
内見予約・入居申込を電子化した事例 — タイセイ・ハウジーと三幸ハウス
賃貸仲介のタイセイ・ハウジーは、2020年7月に内見予約のWeb受付と入居申込のWeb受付を始め、2021年5月には物件確認電話の自動応答を全店舗で使い始めました。繁忙期には月1,000件を超える入居申込を電子化しています。2021年6月には顧客管理と自動物件提案の仕組みを入れ、顧客管理に登録した情報をワンクリックで申込システムへ渡し、再入力をなくす連携を進めました(GA technologies 2021年6月7日発表)。
管理会社側の新しい例として、グループで14,000戸以上の賃貸物件を管理する三幸ハウスは、2025年9月に入居者管理(9月2日)、内見予約と入居申込の受付(9月16日)を電子化し、10月には賃貸借契約の電子化を始める予定だと発表されています(GA technologies 2025年9月16日発表)。内見予約から入居後の手続きまでを一つの仕組みでつなぐ形で、効果の数字はまだ公表されていません。
2社に共通するのは、内見予約・申込・契約を別々に入れるのではなく、同じ入力情報が次の工程へ流れるように順番に広げている点です。申込の情報が契約書や保証会社の審査に自動で渡れば、入力の重複と転記ミスがまとめて減ります。
契約と重要事項説明をオンライン化する — 法改正で何ができるようになったか
契約まわりのDXは、法律の改正で使える範囲が決まります。押さえるべきは2つです。
1つ目はIT重説(テレビ会議などを使ったオンラインの重要事項説明)です。賃貸取引は2017年(平成29年)10月から、売買取引は2021年(令和3年)3月30日から本格運用が始まりました(国土交通省 IT重説検討会の開催案内(2018年2月、賃貸の本格運用開始に言及)、国土交通省 売買取引の本格運用)。一定の要件のもとで行ったIT重説は、対面の重要事項説明と同じように扱われます。
2つ目は書面の電子化です。2021年5月19日に公布された「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」により、宅地建物取引士の押印が不要になり、重要事項説明書、契約締結時の書面、媒介契約締結時の書面などを電磁的方法で提供できる改正規定が2022年5月18日から施行されました(国土交通省 2022年4月27日発表)。
国土交通省の発表では、電子で提供するときの条件も決められています。
- 提供の方法:電子メール、Webページからのダウンロード、USBメモリ等の交付など
- 守るべき基準:書面に出力できること、電子署名等で改変されていないか確認できることなど
- 相手方の承諾:あらかじめ、提供に使う方法とファイルの記録形式を示して承諾を得る
国土交通省は、事業者向けに「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明 実施マニュアル」を公表しています。承諾を取る手順や、相手が途中で紙を希望した場合の扱いまで含めて社内の手順書に落とすときは、このマニュアルを原本として使ってください。電子契約サービスの選び方や対象書類の整理は不動産の電子契約 完全ガイドで詳しく解説しています。
IT重説と電子交付で守ること
国土交通省のマニュアル(国土交通省 IT重説実施マニュアルのページ)は、項目ごとに「遵守」と「留意」を分けて書いています。社内の手順書に最低限入れておきたいのは次の点です。
| 場面 | マニュアルに書かれていること | 社内で決めておくこと |
|---|---|---|
| 電子で提供する前 | 相手方が利用予定のソフトウェア等に対応できるかを事前に確認し、承諾を得る。承諾は書面、電子メール、Webページ、USBメモリ等で受け取れる | 承諾を受け取る方法と、記録を保存する場所 |
| 承諾を得るとき | 承諾した後でも、電子での提供を拒否できることを説明する | 拒否されたときに紙へ切り替える手順 |
| IT重説の環境 | 内容を十分に理解できる程度に映像を視認でき、音声を聞き取れ、双方向でやり取りできる環境で行う | 使うWeb会議ツールと、通信が不安定なときの代わりの手段 |
| IT重説の前 | 重要事項説明書を事前に送り、開始前にIT環境が整っていることを確認する | 送付から説明日までの日数の目安 |
| 説明の冒頭 | 宅地建物取引士証を相手方が視認できたことを、氏名を読み上げてもらう等で確かめる。相手方が本人であることも確認する | 本人確認の方法と、確認したことの記録 |
| 説明の途中 | 映像の視認や音声の聞き取りに支障が出たら中断し、原因を解消してから再開する | 中断した場合の再開・延期の判断者 |
不動産流通推進センターの資料によると、国土交通省は2024年12月にIT重説の実施マニュアルをリニューアルし、要点をまとめた「書面電子化・IT重説マニュアル ハンディガイド」も作っています。手順書を作るときは、国土交通省のマニュアルのページで最新版を確認してください。

生成AIを社員が日常的に使う事例 — 三井不動産
生成AIは、不動産DXの中でもっとも新しい領域です。三井不動産の「DX白書2025-2026」では、同社単体の生成AIチャット利用率が63.8%、一人当たりの生成AIメッセージ数が月66件(いずれも2025年10月)と公表されています。同じ資料では、システム刷新による業務効率化時間を90.3万時間(約470人分)としています(三井不動産 DX白書2025-2026)。この90.3万時間は、計画金額が1億円以上の案件について、2018年4月〜2024年3月に稼働したシステムを対象に稼働後6か月以降の実績を集計した値と注記されています。
大手の数字をそのまま中小に当てはめることはできませんが、業界全体でも生成AIの利用は広がっています。業界調査では、使っている生成AIは ChatGPT が85.5%で最多、Gemini は前年の10.6%から38.8%に増えました。用途は「情報収集」56.1%、「物件の紹介文などの作成」48.1%、「顧客対応や問合せ対応文の作成」41.9%で、文章を作る仕事が中心です。ただし、1か月あたりの業務削減が10時間以上の人は11.1%にとどまり、1時間未満の人が31.4%いました。生成AIは「入れれば時間が減る」ものではなく、どの文章作成を任せるかを決めてから効果が出る道具です。
AI査定・VR内見 — 満足度は高いが、使いどころを選ぶ
AI査定システムは、業界調査で満足度79.4%と、内見予約・入居申込に並ぶ高い評価でした。賃料や売却価格の目安をすばやく出せるため、反響への初回返信を速める用途に向いています。一方で、リフォームの履歴や日当たり、眺望のようにデータに表れにくい要素は人が補う必要があります。仕組みと精度の考え方は不動産AI査定の解説で整理しています。
VR内見(360度画像を使ったオンライン内見)は、転勤や進学で遠方から部屋を探す人への対応で効果を発揮します。アットホームの調査では、DXに取り組む予定がない会社でも「物件画像の撮影・管理」に関心がある割合が5割を超えており、撮影と画像管理の手間を減らしたいという需要は根強くあります。費用と導入手順はVR内覧導入ガイドを参照してください。

業務別のDXツールと選び方
不動産DXのツールは、業務ごとに選ぶより「どの業務の情報を、次の業務へ自動で渡せるか」で選ぶほうが失敗しにくくなります。下の表は、業務ごとの仕組みと、公表資料で確認できる代表的なサービス、選ぶときの確認点をまとめたものです。
| 業務 | 仕組み | 公表資料で確認できるサービスの例 | 選ぶときの確認点 |
|---|---|---|---|
| 物件確認・内見予約 | 業者間サイト、内見予約システム、スマートキー | ITANDI 賃貸管理(イタンジ)、スマート案内予約(アットホーム) | 取引の多い仲介会社がすでに使っているか。鍵の受け渡しと連動できるか |
| 入居申込 | Web入居申込システム | ITANDI 賃貸管理の申込システム(イタンジ)、スマート申込(アットホーム) | 取引のある家賃債務保証会社と連携しているか。申込情報を契約書に引き継げるか |
| 重要事項説明・契約 | IT重説、電子契約、書面の電子交付 | 電子契約サービス各社(詳しくは電子契約の解説記事) | 国土交通省の基準(出力・改変確認)を満たすか。承諾の記録を残せるか |
| 反響・追客 | 顧客管理(CRM)、チャット、顧客とのやり取りの記録 | コミュニケーションプラットフォームのカイクラ(シンカ)など | 反響の取り込みを自動化できるか。担当者が替わっても履歴が残るか |
| 査定・賃料設定 | AI査定、賃料査定 | スマサテ(スマサテ)など | 自社エリアのデータが十分か。根拠の説明に使える資料が出せるか |
| 撮影・物件画像 | 360度撮影、VR内見 | スペースリー(スペースリー)など | 撮影の手間がどれだけ減るか。ポータルへの掲載形式に合うか |
| 管理・オーナー対応 | 賃貸管理システム、オーナー向けアプリ | WealthPark ビジネス(WealthPark)など | 既存の基幹ソフトからデータを移せるか。オーナーへの報告を自動化できるか |
サービス名は、上で紹介した各社の発表と業界調査の共同実施企業一覧で確認できたものです。ランキングではなく、業務ごとの例として挙げています。料金は規模や契約内容で変わるため、各社の公式情報で確認してください。
選定の決め手について、アットホームの調査では「使いやすさ・利便性が高いから」が37.7%で最多でした。導入時の苦労は「操作・運用に慣れるまで時間がかかった」が約半数、「データの移行・整備作業が複雑で手間がかかった」が約3割です。デモで確かめるべきは機能の数ではなく、毎日使う担当者が迷わず操作できるかと、今あるExcelや基幹ソフトのデータをそのまま移せるかの2点です。
既製のサービスで足りるか、連携の開発が要るかの分かれ目
多くの中小の不動産会社は、既製のクラウドサービスを組み合わせれば十分です。開発が必要になるのは、次のような場合に限られます。
- 基幹ソフトと申込・契約のサービスがつながらず、毎日同じ情報を手で転記している
- 自社のWebサイトの物件情報と、問い合わせ・内見予約の仕組みが連動していない
- 社内の物件データや過去の問い合わせを使って、自社専用の生成AIの回答を作りたい
このとき、全部を作り直す必要はありません。既製サービスのAPIや出力ファイルをつなぐ小さな連携を作るか、n8nのようなワークフロー自動化ツールで「問い合わせ受信→顧客管理に登録→担当者へ通知」をつなぐだけで、転記の大半はなくせます。
年間予算別・不動産DXの始め方
不動産DXは、予算に合わせて「一番時間を取られている業務」から始めるのが基本です。アットホームの調査で約8割が年間30万円未満という実態に合わせ、3つの段階に分けます。
| 年間予算の目安 | まず取り組むこと | 期待できる変化 | 次に進む条件 |
|---|---|---|---|
| 10万円未満 | 業務の棚卸し、Web会議でのIT重説、生成AIでの文章の下書き(個人情報を入れない範囲) | 移動と日程調整の手間が減る。紹介文やメールの下書き時間が減る | 月の受電件数・申込件数・契約件数を数え始めた |
| 10〜100万円 | 内見予約・入居申込・電子契約のクラウドサービスを1つずつ | 電話・FAXの往復と転記が減る。営業時間外の予約を受けられる | 申込の電子化率が上がり、紙の申込が例外になった |
| 100万円以上 | 基幹ソフトと各サービスの連携、顧客管理の統合、社内データを使う生成AI | 担当が替わっても履歴が残る。問い合わせへの回答を社内データで自動化できる | 連携で減った作業時間を数字で示せる |
最初の3か月でやること
- 業務の棚卸し(1〜2週目):1か月分の受電・FAX・来店を、物件確認、内見予約、申込、契約、入居後の問い合わせに分けて数えます。ここで最も件数の多い業務が最初の対象です。
- 対象の業務を1つ決めてツールを試す(3〜6週目):取引の多い仲介会社や管理会社がすでに使っているサービスを優先します。相手が使っていない仕組みは、相手の手間を増やすだけになりがちです。
- 社内のルールを決める(7〜8週目):電子で提供するときの承諾の取り方、紙を希望されたときの対応、データの保存場所を決め、国土交通省のマニュアルと照らし合わせます。
- 数字で振り返る(9〜12週目):最初に数えた件数と比べ、電話・FAXの減り方、申込から契約までの日数を確認します。効果が見えたら次の業務へ広げます。
国の支援も確認しておきましょう。国土交通省は2025年8月〜11月に、従業員がおおむね20名以下の宅建業者を対象に、IT重説や電子契約のサービスを新しく入れる費用(導入費用と3か月分の利用料)を最大50万円(税込)まで支援する実証事業を行いました(国土交通省 実証事業のお知らせ)。2025年度の募集はすでに終わっていますが、同様の事業が続くかは同省のページで確認できます。また、ITツールの導入を支援する補助金は、令和7年度補正予算の事業から「デジタル化・AI導入補助金(旧:IT導入補助金)」に名称が変わりました(総務省資料)。対象となるツールや補助率は公募ごとに変わるため、申請前に公式の公募要領を確認してください。

業態によって最初の一手は変わる
国土交通省の令和5年度調査では、IT重説も書面の電子化も、売買より賃貸のほうが進んでいました。業態ごとに、時間を取られやすい業務と最初の一手を整理すると次のとおりです。
| 業態 | 時間を取られやすい業務 | 最初の一手の例 |
|---|---|---|
| 賃貸管理 | 仲介会社からの物件確認・内見の鍵の問い合わせ、入居申込の受付、更新・退去の手続き | 内見予約と入居申込のWeb受付。物件確認の自動応答 |
| 賃貸仲介 | 反響への返信、物件提案、管理会社への空室確認と内見予約 | 顧客管理への反響の自動取り込み。管理会社が使う予約・申込システムへの対応 |
| 売買仲介 | 査定の作成、遠方の顧客との日程調整、重要事項説明 | 査定の下書きの自動化。売買のIT重説(2021年3月から本格運用) |
| 売主・開発 | 販売資料の作成、問い合わせ対応、契約書類の管理 | 書面の電子交付。物件紹介文の下書きに生成AI(表示規約の確認つき) |
効果を測る指標を先に決める
DXの効果は「便利になった」という感想ではなく、件数と日数で測ります。アットホームの調査では「社内で状況・進捗を可視化できた」が効果の上位に挙がりましたが、可視化の効果を判断するにも、導入前の件数が必要です。導入前に次の指標を1か月分記録しておくと、導入後の比較ができます。
| 業務 | 測る指標 | 記録のしかた |
|---|---|---|
| 物件確認・内見予約 | 1か月の受電件数、営業時間外の予約の件数 | 電話の受付票を用件別に分ける。予約システムの受付時刻 |
| 入居申込 | 紙・FAXの申込の割合、申込から審査結果までの日数 | 申込ごとに受付日と結果日を記録する |
| 重要事項説明・契約 | 来店回数、申込から契約までの日数、書類の差し戻し件数 | 契約ごとに来店日と契約日を記録する |
| 反響・追客 | 反響から初回返信までの時間、担当替えで失った案件の数 | 顧客管理の受信時刻と返信時刻 |
| 生成AIの活用 | 紹介文・メールの下書きにかかる時間、修正が必要だった件数 | 担当者が1週間だけ作業時間を記録する |
生成AIを使うときの注意点 — 広告表示と個人情報
生成AIで物件の紹介文や顧客への返信を作るときは、文章の速さより先に、法律とルールに触れないかを確認します。特に注意したいのは2点です。
物件広告は表示規約に沿っているか
不動産の広告には、業界の自主ルールである「不動産の表示に関する公正競争規約」があり、改正された新しい規約が2022年9月1日に施行されています(不動産公正取引協議会連合会)。生成AIは、もっともらしい形容詞や、実際の設備にない魅力を付け足すことがあります。紹介文を生成AIに書かせる場合は、入力する物件情報を事実に限定し、出力に「駅徒歩」「築年数」「設備」などの事実が正しく反映されているか、誇張した表現がないかを、規約を知る担当者が確認してから公開してください。
顧客の個人情報をそのまま入力していないか
個人情報保護委員会は2023年6月2日、生成AIサービスの利用について注意喚起を出しています(個人情報保護委員会)。事業者が個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、特定した利用目的の範囲内か確認すること。本人の同意なく個人データを入力し、それが回答の出力以外の目的で扱われる場合は個人情報保護法に違反する可能性があるため、サービス側が入力データを機械学習に使わないことなどを確認すること、が示されています。
実務では、申込者の氏名・連絡先・勤務先・収入などを生成AIに入れず、物件情報と文面の型だけで下書きを作る運用から始めるのが安全です。社内データを使って回答を自動化したい段階になったら、入力データを学習に使わない契約のサービスを選び、どの情報を入れてよいかの社内ルールを先に作ります。全社的なルールの作り方は中小企業のAI導入完全ガイド、チャットボットの仕組みと注意点はAIチャットボット完全ガイドで解説しています。
不動産DXでつまずきやすいポイント
調査結果と公表事例を突き合わせると、つまずく場所はおおむね決まっています。
| つまずき | 起きること | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 相手が使っていない仕組みを入れる | 仲介会社・管理会社が電話とFAXを使い続け、二重運用になる | 取引の多い相手がすでに使っているサービスを優先する |
| 操作に慣れる前に機能を広げる | アットホームの調査で約半数が「慣れるまで時間がかかった」 | 1業務ずつ入れ、操作に慣れてから次へ進む |
| データを移さずに始める | 古いExcelと新しいシステムの両方に入力が残る | 移行するデータの範囲と締め日を最初に決める |
| 紙を希望する顧客を想定していない | 承諾を取らずに電子で送ってしまう、紙の流れが残らない | 承諾の取り方と紙で対応する手順を社内ルールに書く |
| 生成AIの出力をそのまま使う | 事実と違う表現や個人情報の入力が起きる | 入力してよい情報と、公開前の確認者を決める |
どのつまずきも、ツールの性能ではなく業務の決め方で防げます。DXを始める前に「どの業務の、何の件数を減らすか」を1つ決めておくことが、もっとも効果の大きい準備です。
状況別の読み分け早見表
自社の状況に近い行から読み進めてください。
| 当てはまる状況 | 次に読むセクション・記事 |
|---|---|
| 何から始めればよいか分からない | 「年間予算別・不動産DXの始め方」の最初の3か月 |
| 電話とFAXの対応に追われている | 「物件確認の電話を自動応答にした事例」と「内見予約・入居申込を電子化した事例」 |
| 契約をオンラインで完結させたい | 「契約と重要事項説明をオンライン化する」と不動産の電子契約ガイド |
| 査定や賃料設定を速くしたい | 不動産AI査定の解説 |
| 生成AIを営業や広告に使いたい | 「生成AIを使うときの注意点」 |
| 業界全体の動向を知りたい | 不動産テック最新トレンド2026 |
他業界のAI活用の進め方と比べたい場合は、製造業のAI活用事例も参考になります。業務の切り分け方は業界が違っても共通する部分が多いためです。
よくある質問
まとめ
不動産DXは、関心の高さに比べて実際の導入はまだ2割前後で、多くの会社が年間30万円未満の予算で取り組んでいます。公表されている事例では、物件確認の電話の自動応答、内見予約と入居申込のWeb受付、IT重説と書面の電子化といった、会社間で同じ情報をやり取りする業務から成果が出ています。生成AIは文章作成を中心に広がっていますが、表示規約と個人情報のルールを決めてから使うことが前提です。
まずは1か月分の電話・FAX・来店を業務別に数え、最も件数の多い業務を1つ選んでください。そこから、取引先がすでに使っているサービスで小さく始め、数字で効果を確かめながら次の業務へ広げていくのが、予算の限られた会社でも続けられる進め方です。
koromo では、業務の棚卸しから、既製のサービスで足りる部分と連携の開発が必要な部分の切り分け、生成AIを使うときの社内ルールづくりまでを支援しています。どこから手を付けるべきか迷っている段階でもご相談ください。
koromo からの提案
AIツールの導入判断は、突き詰めると「投資対効果が合うか」「リスクを管理できるか」「事業にどう効くか」の3点に帰着します。koromo では、この判断に必要な材料を整理するところからご支援しています。
以下のような状況にある方は、まず現状の整理だけでも前に進むきっかけになります。
- AIで開発や業務を効率化したいが、自社に合う方法がわからない
- 社内にエンジニアがいない / 少人数で、AI導入の進め方に見当がつかない
- 外注先の開発会社にAI活用を提案したいが、何を求めればいいか整理できていない
- 「AIを使えばコスト削減できるはず」と感じているが、具体的な試算ができていない
ツールを使った上で相談したい方はお問い合わせフォームから「不動産業のDX・AI活用の相談」とご記載ください。初回の壁打ち(30分)は無料で対応しています。
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