システム保守会社は変更できる?必要な資料・権限・引き継ぎ条件
システムの保守会社を変更できるかどうかは、交渉力ではなく契約書の解約条項と手元の資料・権限で決まります。デジタル庁の標準ガイドラインとIPAモデル契約、公開されている保守約款4件をもとに、解約予告期間・データ出力・引き継ぎ費用の確認手順をまとめました。

システムの保守会社を変更したい、と考えたときに最初に調べるべきなのは、他社の料金でも、いまのベンダーとの関係でもありません。手元の契約書の解約条項と、自社が受け取れる資料・権限です。この2つが揃っていないと、他社に声をかけても比較可能な見積もりは返ってきませんし、そもそも希望した時期に契約を終われません。
本記事は、保守会社の変更を「できる/できない」ではなく、いつまでに何を確認すれば選択肢が残るかという手順として扱います。根拠には、デジタル庁の標準ガイドライン、IPAと経済産業省のモデル取引・契約書、民法の条文、そしてWeb上で誰でも読める保守約款4件を使います。金額の相場は扱いません(理由は本文と「根拠資料と適用条件」に書きます)。
TL;DR|変更できるかは、交渉力ではなく契約条項と引き継ぎ資産で決まる
- 「第三者保守」を探しているなら、たぶん違うものを探しています。 本記事で確認した第三者保守事業者の公開ページでは、対象はメーカーサポートを終えたハードウェアとされ、ソフトウェアに関する保守は対応不可に挙げられていました。稼働中の業務システムの委託先を変えたいなら、探す言葉は保守移管です
- 最初に読むのは、他社の資料ではなく自社の契約書です。 民法上、委任契約は各当事者がいつでも解除できるのが原則ですが(民法第651条第1項)、実務ではその前に契約書の予告期間・自動更新・中途解約の定めが効きます。公開されている保守約款4件では、解約の予告期間は「1ヶ月前」「1カ月以上前」「明記なし」「いつでも可」の4通りに割れ、更新は何もしなければ延長される型(予告期間型・手続型。ただし1件は対象物ごとに扱いが違う)と更新の意思表示をしなければ終わる型(更新意思型)に分かれました
- 動けるかどうかは、契約満了日から数えた6つの日付で決まります。 満了日→通知期限→社内決裁→新候補先(新たに見積もりを依頼する会社)の選定→資料の受領→現ベンダー(現在の保守会社)への照会、の順に逆算すると、いま着手すべきかどうかが1回の計算で出ます。「◯ヶ月前から」という一般的な目安は使えません。この記事の判断は最終的にこの日付に戻ってきます
- 引き継ぎ対象として政府の標準ガイドラインが名指ししているのは、設計書・作業経緯・残存課題です(設計・開発から運用・保守へ引き継ぐ場面の記述。事業者の交代の場面では後ろの2つが挙がっています)。民間の引き継ぎで用意されるのはたいてい設計書だけですが、次の会社の見積額を左右するのは後ろの2つです
- 「解約金」という名目の条項が無くても、解約には費用がかかります。 かかり方は2種類です。ひとつは中途解約の精算(残期間分の支払いや、前払い分が返ってこないこと)。もうひとつはデータ出力・データ消去・引き継ぎ支援という作業の費用です。後者3つの条件が契約に書かれていなければ、金額も範囲も、解約を申し出た後に決めることになります。それは発注側にとって最も条件の悪いタイミングです
- 「データを出せます」と「他社が使える形で出せます」は別のことです。 形式・範囲・構造・期限・費用の5つが契約に書かれていないと、出てきたファイルがそのままでは使えないことがあります。とくに構造(テーブル間の対応関係)が保たれていないと、移行費用はたいていそこで跳ね上がります
- 現ベンダーを継続するという結論も、同じくらい正しい答えです。 本記事のゴールは乗り換えの推奨ではなく、続けるか変えるかを毎年選び直せる状態を作ることです
なお、保守費用が下がりにくくなる構造そのもの(なぜロックインが起きるのか、公的データで何が示されているか)はベンダーロックインで保守費用が下がらない理由で扱っています。本記事はその先の変える側の手順を担当します。
まず用語を確認する|「第三者保守」は保守会社の変更とは別のもの
保守会社の変更を調べていると「第三者保守」という言葉に行き当たります。ここは用語がずれやすいので、分けておきます。
第三者保守サービスを提供する株式会社ゲットイットは、自社サービスの説明で第三者保守を「サーバーやストレージ・ネットワーク機器など、ハードウェアの安定稼働をIT機器メーカーに依存せず独立企業がサポートする保守サービス」と定義しています(2026年8月21日取得)。同ページのQ&Aでは「メーカーサポート終えたIT機器(サーバー、ストレージ、ネットワーク機器など)に対して第三者企業が提供する独自の保守サービス」とも説明されています。対象はサーバー、ネットワーク機器、ストレージ、ワークステーション等のITハードウェアで、対応不可の内容として「ソフトウェアに関する保守」が挙げられています。 同ページの「メーカー保守と第三者保守の主な相違点」の表では、「OS/ソフトウェア由来の障害のサポート」の第三者保守欄にバツ印が付き、備考に「メーカーさまのOS/ソフトウェア関連のサポートを第三者保守で引き継ぐのは原則不可です」と書かれています。同じ表では「障害一次切り分け」の第三者保守欄が「お客さま」となっています(メーカー保守欄は「原則お客さま」)。同ページのQ&Aは、移行後に受けられなくなる主なサービスとして障害切り分けを挙げています。
同社はまた、メーカー保守から第三者保守へ移行した場合に受けられなくなる「主なサービス」として、サブスクリプションライセンスの延長契約(同社は「メーカーにより対応可能なケースもあり」と付記)、ファイアウォール機能やUTM機能(統合脅威管理)、自動発報機能、最新ソフトウェアの提供(原文の表記は「FWやセキュリティパッチ」)、障害切り分けの5つを挙げています。これは1社の公開サービス条件であり、業界共通の条件ではありません。それでも、言葉の指す範囲を確認するには十分です。
つまり、次の整理になります。
| 用語 | 主に指すもの | 典型的な動機 | 本記事の対象か |
|---|---|---|---|
| 第三者保守(EOSL保守) | メーカー保守が終了したハードウェアの保守 | ハードウェアを延命し、更新時期をずらす | 対象外 |
| 保守移管・保守引き継ぎ | 稼働中のシステム(ソフトウェア)の保守委託先の変更 | 費用・品質・体制の見直し | 本記事の対象 |
| システム刷新・リプレース | システムそのものを作り替える | 老朽化、業務要件の変化 | 対象外(別の判断) |
自社が探しているのが「いまのシステムを、いまのまま、別の会社に見てもらうこと」なら、それは第三者保守ではなく保守移管です。 検索の言葉を変えるだけで、当たる会社が変わります。逆に、ハードウェアのサポート終了が目前で困っているなら、ソフトウェアの保守会社を変えても解決しません。
本記事の登場人物
言葉をもう1組そろえておきます。以降、現在の保守会社を現ベンダー、新たに見積もりを依頼する会社を新候補先、自社の情報システム担当や管理部門を自社と表記します。まだ絞り込む前の候補一般を指すときだけ「他社」と書きます。先方へ送るメール文面の中は、読み手に伝わる表現へ置き換えています。
「変更できますか」の答えは、契約書の解約条項に先に書いてある
保守会社の変更を検討し始めると、多くの場合、最初に社内で出る質問は「そもそも途中でやめられるのか」です。ここは法律と契約書の関係を先に整理しておくと、以降の判断が速くなります。
法律上の原則と、実務で先に効くもの
システムの保守契約は、成果物の完成ではなく作業の遂行を約束する準委任契約の形をとることがあります。後掲の公開約款のうち、株式会社デジタルキューブの保守契約約款は「準委任契約にて委託し」と明記し、ゾーホージャパン株式会社の規約も「成果物の有無を問わず、全て準委任形態で行われる」と定めています。準委任には民法の委任の規定が準用されるため、途中でやめられるかどうかの原則は次の条文が出発点になります。
(委任の解除)第六百五十一条 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。 2 前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。 一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。 二 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。
(民法/2026年8月21日時点の施行版。以下の条文引用も同じ)
あわせて関係するのが、途中で終わったときの報酬の扱いです。
(受任者の報酬)第六百四十八条 … 3 受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。 一 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。 二 委任が履行の中途で終了したとき。
そして、解除の効果は過去にさかのぼりません(民法第652条が準用する第620条は、解除は「将来に向かってのみその効力を生ずる」と定めています)。つまり、解約しても、それまでに提供された保守の対価がまとめて戻ってくるという仕組みにはなっていません。
ただし、経営判断として重要なのはここから先です。これらの条文は当事者間の取り決めがない場合の原則を示すもので、実際の契約書には予告期間・自動更新・中途解約の可否・返金の扱いが個別に書かれているのが通常です。何がいつまでにできるかは、条文ではなく手元の契約書で決まります。個別の契約の解釈や、条項が有効かどうかの判断は弁護士の領域です。本記事は、契約書のどこを読み、何を確認するかまでを扱います。
公開されている保守約款4件では、解約はこう書かれている
解約の条件は、自社の契約書を1本だけ読んでも「普通なのかどうか」が判定できません。比べる相手が要ります。ここでは、解約条項まで読める公開の約款・規約を4件選び、2026年8月21日時点の内容で並べます。見るのは金額ではありません。
| 事業者 | 文書名 | 文書に記載の日付 | 対象 |
|---|---|---|---|
| ラディックス | 保守契約規約(ラディックス株式会社) | 制定1996年4月1日/改定2017年11月1日 | 情報通信機器(電話機、FAX、PC、プリンタ等)、複写機・複合機、同社指定の業務管理ソフト |
| エスアイ | ソフトウェア保守サービス契約条項(株式会社エスアイ・システム) | 改定告知日2025年9月12日/適用日2025年10月15日 | 自社パッケージソフトウェア |
| デジタルキューブ | 保守契約約款(株式会社デジタルキューブ) | 2025年8月26日改定 | WordPressサイト |
| ゾーホー | 年間保守サポートサービス規約(ゾーホージャパン株式会社) | 2017年5月1日制定/2021年4月14日改定 | 自社製品(ManageEngine) |
4件はいずれも、定型の製品やサービスに紐づく約款です。 個別に締結するスクラッチ開発の保守契約とは成り立ちが違うため、条項の文言をそのまま自社に当てはめることも、金額の相場として読むこともできません。見るべきは、同じ「解約」という言葉が、どれだけ違う条件で運用されているかの一点です。
| 論点 | ラディックス | エスアイ | デジタルキューブ | ゾーホー |
|---|---|---|---|---|
| 解約の申出 | 甲乙どちらからも可 | 顧客側から可 | 顧客側から可 | 顧客側から可 |
| 予告期間 | 1ヶ月前まで(基本条項=契約全体の定め) | 1カ月以上前(ただし後述の条件あり) | 条項に明記なし(所定の申込書を提出) | 「いつでも」解約可 |
| 通知の方法 | 文書 | 事業者が指定する書面 | 事業者所定の『保守契約解約申込書』 | 解約条項に指定なし(ただし第16条が、契約者からの連絡は本サービス上で定められた方法によってのみ行うと定めている) |
| 支払済み料金 | 返還しない(事業者の責に帰すべき事由による事業者からの中途解約に限り未経過月分を返還) | 返還を求めることはできない | 一切返金しない | 返還されない |
| 初回契約期間中の解約 | 制限の記載なし | 更新前の最初の契約期間の経過後に可。残期間分の保守料金を支払えば期中でも可 | 制限の記載なし | 制限の記載なし |
| 自動更新 | 満了日の30日以上前に文書での別段の意思表示がなければ自動延長。ただしこれはハードウェアとカウンター契約の個別条項の定めで、ソフトウェアの個別条項に自動延長の定めはない | 満了期日の1カ月前までに申出がなければ1年延長。以後、解約・解除まで自動更新 | 満了の一ヶ月前までに書面で更新拒絶がなければ12ヶ月延長(料金は協議) | 満了日の前日までに更新の注文書がなければ期間満了で終了(自動更新しない) |
| 契約終了とデータ・記録 | 契約終了時の定めは記載なし(別途、データの復旧・移動等は保守業務の対象外) | 契約終了時の定めは記載なし(データ管理責任は顧客側) | 期間満了後、事業者が管理していた保守サービス履歴を抹消(顧客は異議を述べられない) | 契約終了時の定めは記載なし(別途、本製品のデータ復元は対象外) |
ラディックスの自動更新の行は、契約の一部にしか及びません。 同規約は有効期間を「各個別条項にて定める」構造をとっており、30日ルールはハードウェアとカウンター契約の個別条項にあって、ソフトウェアの個別条項には自動延長の定めがありません。同じ会社の同じ規約でも、対象物によって出口の条件が違うという例として読んでください。自社の契約書に別紙や個別条項が付いているなら、本紙だけを読んでも期限は分かりません。
エスアイの残期間支払いについては、約款の第9条に次のように書かれています。
第8条の契約期間にかかわらず、甲は、本契約の残期間分の保守料金を支払い、乙が指定する書面を提出することで、当該書面が当社に到達した日が属する月の翌月末日をもって、本契約を解約することができる。
デジタルキューブの契約終了時の扱いは、第11条に次のとおり書かれています。ここで抹消されるのは顧客の業務データではなく、事業者側が持っている保守サービスの履歴である点に注意してください。
本契約の契約期間が満了した後、乙は、Web アプリケーションサーバで管理していた甲についてのすべての保守サービス履歴を抹消します。甲は、保守サービス履歴の抹消につき異議を述べることができないものとします。
この4件から読み取れる、出口の型3つ
予告期間型(ラディックス・エスアイ) — 一定期間前に文書(事業者が指定する様式を含む)で通知すれば解約できる、という書き方です。分かりやすい代わりに、更新拒絶の期限を持つ契約では、通知の期限を1日でも過ぎると次の期間が始まります。 期限管理を誰がやるかを社内で決めていないと機能しません。
ただし、期限を逃したら出口が消えるとは限りません。前掲の4件はいずれも、更新のサイクルとは別に中途解約の途を残しています(ラディックスは1ヶ月前の文書通知、エスアイは残期間分の支払い、デジタルキューブは所定の申込書、ゾーホーは「いつでも」)。期限を過ぎて消えるのは出口そのものではなく、払った分を捨てずに抜けられる選択肢のほうです。自社の契約書に中途解約の条項があるかどうかを、更新の期限とセットで確認してください。
手続型(デジタルキューブ) — 期中の解約は、予告期間ではなく「所定の申込書の提出」で成立します。ただし同じ規約は、更新拒絶については満了の一ヶ月前までの書面を求めています(第11条)。 期中に抜けるか、更新のタイミングで抜けるかで、必要な手続きも期限も変わります。書式が事業者側にあるため、様式の取得と受理の確認までが解約手続きに含まれます。 「メールで伝えた」では終わらない可能性があります。
更新意思型(ゾーホー) — 何もしなければ期間満了で終わる書き方です。解約する側にとっては最も動きやすい一方、更新を忘れると保守が切れるという逆向きのリスクがあります。
自社の契約書がどの型かは、次の3語を検索すれば判定できます。「更新」「解約」「予告」。この3語が1つも出てこない契約書は、型が決まっていない状態です。その場合は、次回更新のタイミングで書き足す対象になります。
「一度やめると戻れない」条項がある
見落としやすい類型を1つ挙げます。ゾーホーの規約の第9条第3項には、次の定めがあります。
3 期間満了その他の事由を問わず本契約が終了した場合、契約者は、再度本契約を申込むことはできません。
さらに同規約は、申込みを認めないことができる場合の1つとして「過去に本契約を締結していて、その事由を問わず当該契約が終了した場合」を挙げています。これは違反に対する制裁ではなく、終了の理由を問わない定めです。 「試しに1年止めてみて、駄目なら戻る」という進め方が、契約上そもそも選べないことがあるわけです。
これは1事業者の規約であって、業界の標準ではありません。ただし、戻れるかどうかを確認しないまま解約を決めないという点は、どの契約でも同じです。自社の契約書に再契約の可否が書かれていないなら、それは「不可」ではなく「未確定」です。書面で確認してください。
保守の「範囲」がどこまでかという別の論点(法改正対応やOS更新が含まれるか)については、システム保守契約の範囲|法改正・OS更新・軽微な改修は含まれるのかで契約書の範囲条項を扱っています。本記事は範囲ではなく出口の条項に絞ります。なお同記事も公開約款4件を比較していますが、ロゴスウェア株式会社を含む4件で、重なっているのは3件です。見ている条項も大部分は違います。
いつから動き出すか|契約満了日から逆算する
保守会社の変更でもっとも多い失敗は、気づいたときには次の1年が始まっていたというものです。前掲の約款4件のうち3件では、更新拒絶や解約の申出の期限が「満了の30日以上前」「1カ月前」などと定められていました(残る1件は、更新の注文書を出さない限り期間満了で終了する型です)。日程は契約書ごとに違うので、次の順で自社の日付を埋めてください。
以下を本記事では逆算表と呼びます。
| 逆算の順番 | 埋める日付 | 確認元 |
|---|---|---|
| ① | 契約満了日 | 契約書の契約期間の条項 |
| ② | 更新拒絶・解約の通知期限(①から予告期間を引いた日) | 契約書の更新・解約の条項 |
| ③ | 通知の社内決裁が完了している必要がある日(②の手前) | 社内の決裁規程 |
| ④ | 新候補先の選定が終わっている必要がある日(③の手前) | 見積もり取得・比較にかかる期間 |
| ⑤ | 資料の受領が終わっている必要がある日(④の手前) | 後掲の資料チェックリスト20項目 |
| ⑥ | 現ベンダーへ資料と条件を確認し始める日(⑤の手前) | 後掲の確認質問 |
⑥から①までにどれだけの期間が必要かは、⑤の資料がどれだけ揃っているかで決まります。 資料が手元にあるなら短くできますし、整備から始めるなら整備の見積もり取得と作業期間が加わります。本記事では「◯ヶ月前から動くべき」という一般的な目安は示しません。 契約書の予告期間と、資料の整備状況で決まるためです。
もう1つ、日程で見落とされやすいのが並行稼働の期間です。現ベンダーの契約を終了した翌日から新しい会社が単独で対応できる、という前提を置くと、最初の障害で困ります。両社が同時に契約状態にある期間を置くなら、その分の費用と、どちらが一次対応をするかの取り決めを先に決めてください。決めていないと、障害時に両社が様子見をします。
変更の可否を決めるのは、交渉力ではなく引き継ぎ資産
契約上の出口が確認できたら、次は「他社が引き受けられる状態か」です。ここで役立つのが、政府情報システムの標準ガイドラインの記述です。
デジタル庁のデジタル・ガバメント推進標準ガイドライン(DS-100)は、設計・開発の章に「引継ぎ」という項目を置き、次のように定めています。
PJMOは、情報システムの整備後の事業者変更のリスクを最小限に抑えつつ、円滑かつ効率的に当該情報システムを運用するため、設計・開発事業者に対し、運用事業者及び保守事業者に設計・開発の設計書、作業経緯、残存課題等を確実に引き継ぐよう求めるものとする。
同ガイドラインは、運用・保守の章にも「運用及び保守の引継ぎ」を置き、システムを作り替えない場合の事業者交代についても定めています。
PJMOは、情報システムの更改を伴わずに、運用事業者、保守事業者等に交代が生じるときは、交代前の事業者から交代後の事業者に対し、作業経緯、残存課題等について確実に引継ぎがなされるよう求めるものとする。
このガイドラインは政府情報システムを対象にした政府内の共通ルールで、民間企業に適用義務はありません。それでも、経営判断の材料として次の3点が読み取れます。
なお本記事で「引き継ぎ資産」と呼ぶのは、ベンダーロックインで保守費用が下がらない理由が定義した6点(仕様書・設計書/構成図・運用手順書/管理者権限/ソースコード/データ/権利)に、本章で扱う作業経緯と残存課題の2つを加えたものです。後ろの2つは契約書に書かれることがほとんどなく、依頼して初めて出てきます。
1. 名指しされているのは「設計・開発の設計書、作業経緯、残存課題等」です。 ここは引用元を分けて読む必要があります。3つが並んでいるのは設計・開発事業者から運用事業者・保守事業者へ引き継ぐ場面の記述で、保守事業者が交代する場面の記述に並んでいるのは「作業経緯、残存課題等」の2つです。どちらの条文も末尾に「等」が付いており、これらに限る趣旨ではありません。
それでも、実務上の含意ははっきりしています。民間の引き継ぎで用意されるのはたいてい設計書だけです。「作業経緯」(これまで何をやってきたか)と「残存課題」(分かっているが直していないこと)は、依頼しない限り出てきません。 そして次の会社の見積もり金額を左右するのは、実はこの2つです。残存課題を知らずに引き受けた会社は、安全側に見積もるか、引き受けたあとに追加費用を出すかのどちらかになります。
2. 引き継ぎは、変更を決めてから考えるものとして書かれていません。 1つめの引用は設計・開発の章、つまりシステムを作っている最中の章にあります。「事業者変更のリスクを最小限に抑えつつ」という目的が、開発段階の要求として書かれています。同ガイドラインは要件定義の章でも、記載すべき事項の1つとして「引継ぎに関する事項」を挙げ、「情報システムの開発、運用等について、他の関係事業者への引継ぎに関する要件を記載する」としています。引き継ぎ条件は、稼働後に交渉するものではなく、発注時に要件として書くものだという整理です。
3. 求める相手は、交代する側の事業者です。 交代前の事業者から交代後の事業者へ引き継がせることを、発注者が求める、という構造になっています。新旧2社に任せて成り行きに委ねるのではなく、発注者が引き継ぎの範囲と完了条件を決めるという前提です。
IPAと経済産業省の情報システム・モデル取引・契約書<第二版>も、保守の工程について同じ方向の記述を置いています。
システムの所有者であるユーザには、必要に応じてベンダの協力を得ながら、将来的なシステムの再構築を見据え、保守内容の設計文書等への確実な反映や、業務・設計のノウハウ等の円滑な引継ぎなど、適切な管理が求められる。
ここでも主語は発注側(ユーザ)で、ベンダは「協力を得る」相手として書かれています。資料が最新化されていない状態は、ベンダー側の不作為であると同時に、発注側が管理していない状態でもあるという整理です。責任の押し付け合いをしても引き継ぎは進みません。動かせるところから動かすのが早道です。
変更前に集める資料チェックリスト|「持っているか」ではなく「受け取れる形か」
引き継ぎ資産6点そのものの4状態判定は、前掲のロックイン記事の判定表で行います。後述の「出口条項を4状態で仕分ける」で扱うのは、その表に無い出口の条項です。ここではその手前、実際に受け取る作業のリストを置きます。判定表と違うのは、各項目に「どの形式で」「いつまでに」「何をもって受領完了とするか」を付けている点です。引き継ぎは、受け取ったつもりで終わるのが多い失敗です。
| # | 集めるもの | 依頼先 | 受け取る形式の例 | 受領完了の確認方法 | 揃わない場合の代替 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 保守契約書と別紙・覚書の全部 | 自社(社内の契約管理) | 締結済み原本または写し(差替え履歴を含む) | 条項の通し番号が飛んでいないこと | 現ベンダーに写しの再交付を依頼する |
| 2 | 直近の見積書と請求書(12ヶ月分) | 自社 | 内訳の行が見える形式 | 定額分と都度作業分が区別できること | 現ベンダーに再発行を依頼する |
| 3 | 設計書(最新版) | 現ベンダー | 電子データ。更新日と対応する改修が分かる状態 | 直近1年の改修が反映されているか2〜3件抜き取り確認 | 未反映分の一覧だけでも文書でもらう |
| 4 | 作業経緯(過去の改修・障害対応の履歴) | 現ベンダー | 一覧表(日付・事象・対応内容・所要時間) | 直近12ヶ月に空白の月がないこと | 月次報告書の写しで代替する |
| 5 | 残存課題(既知の不具合・暫定対応・技術的な先送り) | 現ベンダー | 一覧表(内容・影響・暫定対応の有無) | 「なし」と回答された場合も書面でもらう | 障害履歴から未クローズ項目を自社で抽出する |
| 6 | システム構成図・ネットワーク構成図 | 現ベンダー | 図面(更新日入り) | 現在の本番環境と一致するか1点抜き取り確認 | 現ベンダーに現況調査を有償で依頼する |
| 7 | バッチ・定期処理の一覧 | 現ベンダー | 一覧表(実行時刻・依存関係・失敗時の影響) | 月次・年次の処理が漏れていないこと | 運用カレンダーで代替する |
| 8 | 障害対応手順・定常作業手順 | 現ベンダー | 手順書 | 他社の担当者が読んで実行できる粒度かを確認 | 立ち会いでの手順実演を依頼する |
| 9 | ソースコード(本番稼働版) | 現ベンダー | リポジトリまたは一式のアーカイブ | ビルドできること、または新候補先に確認してもらう | 契約上の納品対象かを契約書で確認する |
| 10 | ビルド・デプロイの手順と実行環境 | 現ベンダー | 手順書+設定ファイル | 新候補先が手順どおりに再現できるか | 引き継ぎ期間中の同席作業を依頼する |
| 11 | 使用しているライブラリ・ミドルウェアの一覧とバージョン | 現ベンダー | 一覧表 | サポート終了済みのものが分かること | 稼働環境から自社で抽出する |
| 12 | 外部連携先の一覧(API・決済・SaaS) | 現ベンダー | 一覧表(接続先・認証方式・契約名義) | 各連携先の契約名義が自社か確認 | 請求書の支払先から逆引きする |
| 13 | クラウド・サーバーの管理者権限と契約名義 | 現ベンダー/自社 | 管理コンソールへの管理者アカウント | 自社アカウントで実際にログインできること | 閲覧権限だけでも先に取得する |
| 14 | ドメイン・SSL証明書の名義と更新期限 | 現ベンダー/自社 | 登録情報の画面またはレジストラの明細 | 名義が自社であること、次回更新日 | 名義変更の手続きを先に始める |
| 15 | 各種アカウント・認証情報の棚卸し表 | 現ベンダー | 一覧表(何のアカウントが誰の管理下か) | 退職者・担当者個人の名義が残っていないか | 管理コンソール側の利用者一覧で確認する |
| 16 | 業務データの出力(形式・範囲・構造・期限・費用) | 現ベンダー | 契約条項の該当箇所、または見積書 | 出力形式が事前に特定されていること | 確認質問で条件を書面化する |
| 17 | バックアップの取得内容と保管場所・保持期間 | 現ベンダー | 設定内容の文書 | 復元の実績があるか | 復旧テストの実施可否と費用を確認する |
| 18 | 再委託先の有無と役割範囲 | 現ベンダー | 書面回答 | 実作業者と責任主体が分かること | 契約書の再委託条項を確認する |
| 19 | 成果物の著作権の帰属と利用許諾の範囲 | 自社(契約書) | 契約書の該当条項 | 第三者への改修委託の可否が読めること | 次回更新時に条項を追加する |
| 20 | 監視・アラートの設定内容と通知先 | 現ベンダー | 設定一覧 | 通知先に自社の宛先が入っているか | 通知先の追加を先に依頼する |
この表は依頼の順番に並べていません。 実務では、次の順で着手すると止まりにくくなります。
- 自社だけで完結するもの(1・2・19) — 契約書と請求書は社内にあります。ここを読むだけで、解約の期限と、いま何にいくら払っているかが分かります
- 依頼するだけで動くことが多いもの(13・14・15・20) — 権限と名義は、資料の作成に比べれば相手の負担が小さい領域です。渡っていないのは、要求されてこなかっただけであることが少なくありません
- 作成の工数が発生するもの(3〜12・16〜18) — ここは無償では出てこない可能性があります。整備そのものを見積もり依頼の対象にするのが現実的です
3の費用を惜しんで手ぶらで他社に声をかけると、返ってくるのは調査費込みの高い見積もりか、辞退です。 どちらも「他社は高かった」という誤った結論になります。
解約費用は解約時ではなく、契約時に決まっている
ここからが、契約前に押さえておくべき条項の話です。保守契約の解約でもめる論点は、実はほとんど決まっています。解約を申し出た時点で条項に書かれていない項目は、そこから交渉することになります。 そして、解約を申し出た後の交渉は、発注側にとって最も条件の悪いタイミングです。
IPAと経済産業省の情報システム・モデル取引・契約書<第二版 追補版>には、SaaS/ASPを選ぶ際のチェックリストが収録されており、ライセンスの区分に次の確認項目が置かれています。
途中解約 解約した場合の料金の扱いはどうなるか データの対応はどうなるか
同じチェックリストは、サービスが廃止された場合についても「計画的廃止の場合、告知は何ヶ月前か、何年間使用可能か。データは保全されるか、データの対応はどうなるか」を確認項目としています。これらはすべて、契約する前に聞くこととして並んでいます。
この追補版は対象読者を、従業員数や資本金ではなく「ベンダと対等の交渉力を有しない」「ITや情報システム取引、法務の専門家、専従者を設置することが困難な」組織と定義しています。法務やITの専任者がいない会社ほど、契約時に条項を埋める必要が大きいという前提で作られた資料だということです。
出口を決める7条項|契約前に埋める、契約済みなら覚書で足す
保守契約を新規に結ぶとき、または次回更新のときに、次の7条項が空欄になっていないかを確認してください。
| # | 条項 | 書いておくべき内容 | 空欄のままだとどうなるか |
|---|---|---|---|
| 1 | 解約予告期間と通知方法 | 何日前までに、どの方法(書面/所定様式/電磁的方法)で通知するか | 通知したつもりが受理されず、次の期間が始まる |
| 2 | 自動更新の条件と拒絶の期限 | 更新される条件、拒絶の意思表示の期限と方法 | 更新拒絶の期限を過ぎる。条項3で中途解約が確保されていなければ、1年単位で身動きが取れなくなる |
| 3 | 中途解約の可否と精算方法 | 期中に解約できるか、できる場合の残期間の扱い | 「できない」と言われたときに、条項で反論できない |
| 4 | データ出力の形式・範囲・構造・期限・費用 | どの形式で、どこまでを、テーブル間の対応を保ったまま、いつまでに、いくらで出すか | 解約が決まってから見積もりが出る(後述) |
| 5 | データ消去と消去の証明 | いつ、どの範囲を消去し、証明を出すか | 解約後もデータが残り続け、確認する手段がない |
| 6 | 引き継ぎ支援の時間・単価・成果物 | 何時間、いくらで、何を成果物として提供するか | 引き継ぎが「善意の協力」になり、量も期限も決まらない |
| 7 | 資料の更新責任と最終版の引き渡し | 設計書等を誰が更新するか、契約終了時に最終版を渡すか | 稼働時の資料しか残らず、他社が読めない |
3〜6が、本記事で言う「解約費用」の実体です。 3は中途解約したときの精算、4〜6は解約に伴って発生する作業の費用で、性質が違います。どちらも解約金や違約金という名前が付いていないぶん、契約時にも解約時にも見落とされやすい領域です。
すでに契約済みでも、埋められる
「もう契約してしまった」場合でも、打つ手はあります。相手方の合意が得られれば、契約書そのものを作り直さなくても、覚書(合意書)で個別の条項を追加できます。 そして、条項の追加がもっとも通りやすいのは、次回更新の直前です。更新の可否を検討している時期は、発注側の意思決定が唯一動く時期でもあります。
進め方としては、上の7条項のうち4・5・6の3つに絞って書面化を依頼するのが現実的です。7条項すべてを一度に求めると契約交渉になりますが、データの出口と引き継ぎ支援の条件だけなら、事業者側にとっても作業内容の明確化という利点があります。
なお、更新のたびに料金が改定される仕組み(値上げ条項やCPI連動の有無)は、本記事では扱いません。更新条件を読むときに、同じ条項の近くで料金改定の定めがあるかどうかだけ確認しておいてください。 本記事は更新の期限を「変更を実行できる最後の日」として扱うにとどめ、金額そのものの妥当性は別の論点として切り分けます。
解約時のデータ出力|「出せます」と「他社が使える形で出せます」は違う
契約前に埋めるべき7条項のうち、実務でもっとも揉めるのがデータです。ここだけ切り出して詳しく見ます。
公的なモデルケースが「望ましい」としている水準
IPAと経済産業省のモデル取引・契約書<第二版 追補版>には、SaaS向けのサービスレベル項目のモデルケースが収録されています(同節が示している参照先は、国立国会図書館のアーカイブURL 1本だけです。URLに www.meti.go.jp/press/20080121004/ を含みます)。その「データ管理」の区分に、次の1項目があります。
サービスレベル項目例:データ消去の要件 規定内容:サービス解約後の、データ消去の実施有無/タイミング、保管媒体の破棄の実施有無/タイミング、およびデータ移行など、利用者に所有権のあるデータの消去方法 測定単位:有無 設定例:サービス解約後1ヶ月以内にデータおよび保管媒体を破棄。 備考:解約時には、CSVなどの一般的なフォーマットでデータ出力ができることが望ましい。
読み取るべき点は3つです。
1つめ。 備考欄の表現は「望ましい」であって義務ではありません。一般的なフォーマットでの出力は、標準で付いてくる機能ではなく、契約で決めておく項目として書かれています。
2つめ。 「消去」と「出力」が同じ項目に入っています。解約時にやることは、自社が受け取ることと、相手側から消えることの両方です。片方だけを確認して終わると、データが出せないか、あるいは出せたが相手側にも残り続けるかのどちらかになります。
3つめ。 これはSaaS/ASPを対象にしたモデルケースであり、受託開発したシステムの保守契約を対象にしたものではありません。ただし、確認すべき項目の並びは、自社サーバーで動くシステムでもそのまま使えます。 同じ資料は、設定値について「実際の設定値は、以下の設定例を参考として、業務内容など個々の状況に応じて決定されるべきものである点に留意されたい」とも書いており、「1ヶ月以内」という数字を一般的な基準として扱わないよう注意しています。
契約に書かれていない状態は、珍しくない
セキュリティ評価サービスを提供するAssuredが、契約終了後のデータの取り扱いについて公表した調査があります(Assured調べ)。同社が自社のセキュリティ調査に回答済みのクラウドサービス事業者を対象に、2024年5月9日時点で集計したものです。
- 約15%のサービスで、契約や規約等によりサービス利用終了後のデータの取り扱いが明確になっていなかった
- 約14%のサービスで、サービス利用終了時または利用者からの指示があった場合でもデータを削除していなかった
同レポートの調査概要は、調査件数を「調査項目により異なる(1:2,192サービス、2:2,141サービス)」としています(上の2項目に順に対応します)。
同レポートは、削除しない理由として事業者側から挙がったものに「問い合わせ対応に備えるため」「サービス停止後にデータ保管を依頼されることがあるため」「利用者が削除を行う必要があるため」などを挙げています。また、削除する場合でも「サービス利用者からの依頼があった場合にのみ削除を実施するケース」があり、削除できると回答したサービスでも、利用者から削除依頼をしないと削除されない点に留意するよう述べています。
この調査の対象はクラウドサービスであって、受託開発システムの保守契約ではありません。数字をそのまま自社の契約に当てはめることはできません。それでも、「終了後のデータの扱いが契約に書かれていない」という状態が例外ではないことは示されています。書かれていない前提で確認するほうが安全側です。
出力条件を確認する5つの軸
「データは出せますか」という質問には、ほぼ確実に「出せます」と返ってきます。判断に使えないので、次の5軸で聞いてください。
| 軸 | 確認すること | 曖昧な回答の例 | 求める回答の例 |
|---|---|---|---|
| 形式 | どのファイル形式か。文字コード、区切り文字、日付書式まで | 「データで出せます」 | 「UTF-8のCSV。日付はYYYY-MM-DD」 |
| 範囲 | どのテーブル・項目まで出るか。添付ファイルや画像は含むか | 「一式お出しします」 | 「対象テーブル一覧と項目定義書を添付」 |
| 構造 | テーブル間の関連(IDの対応)が保たれるか | 「Excelでお渡しできます」 | 「主キー・外部キーを保持したまま出力」 |
| 期限 | 依頼から何営業日で出るか。契約終了の何日前まで依頼できるか | 「解約時に対応します」 | 「依頼から10営業日以内。終了日の30日前まで受付」 |
| 費用 | 無償か有償か。有償なら算定根拠は何か | 「別途お見積もり」 | 「◯人日×単価。作業内訳は◯◯」 |
構造の軸がとくに重要です。 表計算ソフトで開ける形式で出てきても、テーブル間の対応関係が失われていると、次のシステムへ取り込むときに人手での突き合わせが発生します。移行費用が跳ね上がるのはたいていここです。
引き継ぎ費用は、見積書ではこう書かれる
保守会社を変更すると、見積書は2通り発生します。現ベンダーが出す「引き継ぎ支援」の見積もりと、新候補先が出す「引き継ぎ受け入れ」の見積もりです。この2つを別々に見ないと、どちらの費用なのか分からなくなります。
実際の見積書では、次のような書かれ方をします。
| 見積書での書かれ方 | どちら側 | 実際に何をしているか | 単位が曖昧になりやすい点 |
|---|---|---|---|
| 引き継ぎ支援 一式 | 現ベンダー | 質疑応答、立ち会い、資料の受け渡し | 時間か回数かが書かれていない |
| ドキュメント整備 一式 | 現ベンダー | 設計書・手順書の作成または更新 | どの資料を何ページ分作るか不明 |
| データ抽出作業 | 現ベンダー | 出力用のスクリプト作成と実行 | 抽出のやり直しが何回まで含まれるか不明 |
| 環境移管作業 | 双方 | サーバー・クラウドの権限と設定の移し替え | どちらの作業範囲かが両方の見積書に出ることがある |
| 現行調査・解析 | 新候補先 | ソースと設定を読み、構成を把握する | 調査で分からなかった場合の扱いが不明 |
| 初期構築・環境再現 | 新候補先 | 検証環境の構築、ビルド手順の再現 | 現行と同一環境を再現できる前提かどうか |
| 移行期間中の並行運用 | 双方 | 両社が同時に契約状態にある期間の費用 | 何ヶ月分を見込むかが未確定 |
| 保守立ち上げ費用 | 新候補先 | 監視設定、連絡体制、手順の整備 | 初月の保守料に含まれるか別建てか |
見積書を受け取ったら、まず「一式」と書かれた行に、単位を書き足してもらうところから始めてください。引き継ぎ支援であれば「時間」、資料整備であれば「作成対象の資料名と分量」、データ抽出であれば「対象テーブル数とやり直しの回数」です(回数は契約条項ではなく、見積書側で詰める項目です)。単位が決まっていない行は、あとから増減する行です。
実際に費用を生む作業は何か
課金される名目と、実際に人が動いている作業はしばしばずれます。前章の見積行を、おおむね同じ順で実作業へ置き換えると次のようになります(末尾2行は、前章の見積書には名目が現れないものです)。
| 実際の作業 | どちら側 | なぜ費用が発生するか | 削れるか |
|---|---|---|---|
| 質疑応答・立ち会い | 現ベンダー | 担当者の稼働そのもの | 質問をまとめて送れば回数を減らせる |
| 設計書・手順書の作成/更新 | 現ベンダー | 過去の改修を追って文書化する作業が新たに発生する | 削れない。 ただし対象を絞れば減る |
| データ出力用スクリプトの作成と実行 | 現ベンダー | 標準の出力機能がなければ、出力そのものが開発作業になる | 抽出仕様とやり直し回数を先に決めれば減る。条項4が契約にあれば、金額と範囲が解約前に確定している |
| 権限・名義の移管手続き | 双方 | 事務手続きと確認作業 | ほぼ発生しない程度に小さい |
| 現行システムの調査・解析 | 新候補先 | 資料が足りない分をコードから読む | 資料が揃っているほど小さくなる |
| 環境の再現とビルドの確認 | 新候補先 | 手元で動く状態を作る | 手順書があれば減る |
| 並行稼働期間の重複費用 | 双方 | 2社と同時に契約している期間が発生する | 期間の長さで決まる。計画次第で減る |
| 監視・連絡体制の立ち上げ | 新候補先 | 設定と社内手順の整備 | 定型作業のため大きくは減らない |
| 過去の作業履歴の抽出と整理 | 現ベンダー | チケットや作業記録を読み、一覧に起こす | 月次報告書があれば大きく減る |
| 残存課題の洗い出し | 現ベンダー | 未解決の事象を思い出し、影響を評価する | 障害履歴が残っていれば減る |
なお、前章で「環境移管作業(双方)」として双方の見積書に現れる行は、実作業では権限・名義の移管手続き(ほぼ費用が発生しない)と、新候補先側の環境の再現に分かれます。名目と実作業のズレがいちばん大きいのがこの行で、二重計上が起きやすいのも同じ理由です。 両社の見積書にこの行があるなら、どちらが何をするのかを1行ずつ突き合わせてください。
この表のうち、契約や資料の状態で振れ幅が大きいのが「現行システムの調査・解析」と「並行稼働期間の重複費用」です。 そして、この2つはどちらも資料が揃っているかどうかで決まります。資料が揃っていれば調査は短くなり、調査が短くなれば並行期間も短くできます。逆に言えば、資料整備の費用は、新候補先の調査費用と並行期間の費用を前払いしているのと同じです。どちらに払うかの違いであって、総額が単純に増えるわけではありません。
本記事では、これらの作業の金額の目安は示しません。 引き継ぎ費用について、算定根拠が公開されている一次資料を確認できなかったためです。相場らしい数字を探すより、上の表の項目ごとに単位と数量を書いてもらうほうが、判断は速く進みます。保守費用そのものの内訳と考え方はシステム保守費用の相場と妥当性の検証手順にまとめています。
なお、注意すべきは高すぎる見積もりだけではありません。現行システムの中身を知らない新候補先の見積もりは、範囲が狭いために安く見えることがあります。 抜けやすい費目の一覧は前掲のロックイン記事に表があります。依頼の前に、いま契約している対応範囲を1枚に書き出してください。 その1枚を新候補先へ渡し、同一条件での見積もりを求めるのが、比較を成立させる最短の手順です。
現ベンダーの請求が正当と言えるケース
引き継ぎに費用を請求されると「囲い込みではないか」と感じる場面があります。ただ、請求されるほうが自然なケースがあります。
前章の表のうち、設計書・手順書の作成/更新、データ出力用スクリプトの作成と実行、過去の作業履歴の抽出と整理、残存課題の洗い出しの4つは、契約に費目が無ければこれまで実施されていない作業です。新たに発生する以上、請求されるのが自然でしょう。ここでは、金額の話に見えて実は権利・作成主体・契約主体の話である3つを挙げます。
| 状況 | なぜ正当と言えるか | 発注側がすべきこと |
|---|---|---|
| 成果物の著作権がベンダー側にある | 契約でそう定めていれば、権利の範囲内の主張 | 契約書の権利条項と、自社の利用許諾の範囲を確認する |
| 保守の仕様書を現ベンダーが書いてきた | 発注側が書けない状態を、ベンダーが埋めてきたということ | 次回はこちらで書くための材料を依頼する |
| 現ベンダーが使っている監視ツールがそのベンダーの契約 | ツールの契約主体が違う以上、そのまま引き継げない | 名義変更が可能か、代替ツールが必要かを確認する |
「高い」と「不当」は違います。 判断の分かれ目は金額の水準ではなく、算定根拠が示されるかどうかです。作業内容・工数・単価の3つが示されていれば、それは検討できる見積もりです。示されないなら、金額の高低にかかわらず「判断不能」として扱ってください。
出口条項を4状態で仕分ける|解約前に潰しておく項目
集めた回答は、「良い・悪い」ではなく説明済み/要確認/高リスク/判断不能の4状態に仕分けます。「高リスク」は不当という意味ではなく、いま動くと損をしやすい状態という意味です。
前掲の引き継ぎ資産6点そのものの判定は、ロックイン記事の判定表で済ませてください。4状態の定義は同じ枠組みですが、データだけは出口条項として範囲と構造の2軸を足した5軸で判定します。あちらで「説明済み」だった場合も、ここで判定し直してください。ここで仕分けるのは、資産そのものではなく出口の条項です。「対応する条項」の列は、前掲の「出口を決める7条項」の番号を指します。
| 確認項目 | 対応する条項 | 説明済み | 要確認 | 高リスク | 判断不能 |
|---|---|---|---|---|---|
| 解約の期限 | 条項1・2 | 予告期間と通知方法が契約書に明記され、次回の期限を社内で管理している | 条項はあるが、次回の期限を誰も把握していない | 自動更新の拒絶期限をすでに過ぎている | 契約書の原本が見つからない |
| 中途解約 | 条項3 | 期中解約の可否と精算方法が条項にある | 「協議による」としか書かれていない | 期中解約を禁じる条項がある | 条項の有無を確認していない |
| データ出力 | 条項4 | 形式・範囲・構造・期限・費用が契約または見積書で特定されている | 「出力可能」とあるが形式と構造が特定されていない | 契約に記載がなく、費用も未定 | 何のデータがどこにあるか把握していない |
| データ消去 | 条項5 | 消去の時期・範囲と証明の提供が定められている | 消去する旨はあるが時期・証明の定めがない | 契約に記載がない | 保管場所を把握していない |
| 引き継ぎ支援 | 条項6 | 時間・単価・成果物が決まっている | 「協力する」とあるが量が決まっていない | 引き継ぎ義務の定めがない | 条項の有無を確認していない |
| 資料の更新責任と最終版 | 条項7 | 更新責任が契約にあり、契約終了時に最終版を渡す定めがある | 更新責任の定めはあるが、終了時の引き渡しは未定 | どちらの定めもない | 契約書を確認していない |
| 作業経緯・残存課題 | 7条項に無い | 一覧が提供され、未クローズの項目が特定できる | 月次報告はあるが、未解決事項の一覧がない | 記録そのものが残っていない | 依頼していない |
| 再契約の可否 | 7条項に無い | 一度解約しても再契約できると書面で確認済み | 契約書に記載がない | 再契約を認めない条項がある | 確認していない |
表の末尾2項目に「7条項に無い」と付けたのは、契約書に条項として書かれることがほとんどない一方で、解約を決めたあとで効いてくるためです。作業経緯と残存課題は依頼して初めて出てくるもので、再契約の可否は条項が無ければ「不可」ではなく「未確定」です。どちらも、契約書を読むだけでは埋まりません。
「高リスク」が1つでもあるなら、その項目を解消するまで解約の意思表示をしないでください。 意思表示をした後は、条件を決める側が相手になります。
「判断不能」が多い場合は、乗り換えの検討ではなく棚卸しの実施が先です。判断不能のまま他社に声をかけても、返ってくる見積もりを評価できません。
上の表のうち、条項1〜7に対応する6項目は契約書側の条項です。契約書を見ながら手で埋めてください。残る2項目は、現ベンダーへの照会で埋めます。 どちらもツールで代替はできません。
一方、見積書の側から確認したい場合は、システム見積もり診断(登録不要)の「保守・運用」を選ぶと使えます。見るのは保守の対応範囲・月額保守費の内訳・障害対応と改修の境界の3点で、見積書から確認できなかった項目について、指摘とベンダーへの質問が返ります。出口の条項そのものは診断対象ではないので、上の表と役割を分けて使ってください。見積書はテキストPDF・XLSX・CSVで読み込ませる形式で、結果を見るまでメールアドレスの入力は不要です。返るのは金額の評価ではありません。
ベンダーへそのまま送れる確認質問|現ベンダーへ6問・新候補先へ5問
ここまでの確認事項を、そのまま送れる文面にしました。回答は、4状態の表にそのまま書き写せます。
現ベンダーへ送る時期は、逆算表の⑥が目安です。新候補先へは、⑤の資料受領を終えたらすぐに送ります。 ④は選定が終わっている必要がある日なので、見積もりの返送と比較にかかる期間を④から引いた日が、実際の送付期限になります。資料が揃う前に声をかけたときにどうなるかは、資料チェックリストの章のとおりです。ただし新候補先への質問1(見積もりに必要な資料の一覧)だけは、⑥の時点で先に聞いておくと⑤の見通しが立ちます。
なお、前掲のロックイン記事の確認質問(引き継ぎ資産の棚卸し)を既に送っている場合、重複するのは下の質問2と質問5です。質問2は飛ばしてかまいません。質問5は、そちらでは聞いていない文字コード・日付書式・対象範囲・テーブル間の関連の保持まで踏み込んでいるので、その追加分だけを照会するか、質問5ごと送り直してください。残る4問は、そちらでは扱っていない、出口の条件(質問1・6)と、引き継ぎ資産の実体(質問3・4)です。
現ベンダーへ送る6問
〇〇株式会社
ご担当者様
いつも保守対応をいただきありがとうございます。
次回の契約更新に向けて、契約条件と資料の現況を社内で確認しております。
解約や契約内容の変更を申し入れるものではありません。
下記についてご回答をお願いできますでしょうか。
1.【契約期間と更新】現行契約の満了日、更新の条件、および
更新を行わない場合の意思表示の期限と方法(書面/様式の指定の
有無)をお教えください。あわせて、契約期間中に解約する場合の
可否と、その際の料金の精算方法についてもご教示ください。
2.【資料・権限・体制の現況】設計書・システム構成図・運用手順書の
最終更新時点と、稼働後の改修のうち資料へ反映済みのもの・未反映の
ものの区別をお教えください。あわせて、本番環境・クラウドサービス・
ドメイン・SSL証明書の契約名義と管理者権限の保有者、および実際に
作業を担当されている体制と下請・再委託の有無を一覧でご教示ください。
3.【作業経緯】直近12ヶ月の作業実績(日付・事象・対応内容・
所要時間)を一覧でご提供いただけますでしょうか。
定額の保守料に含まれる作業と、都度ご請求いただいた作業を
区別してお示しください。
4.【残存課題】現時点で把握されている未解決の不具合、暫定対応の
まま残っている事象、既知の制約事項があれば一覧でお教えください。
該当がない場合も、その旨を書面でご回答ください。
5.【データの出口条件】契約終了時における業務データの出力について、
現行契約での定めをお教えください。定めがある場合は、出力の形式
(ファイル形式・文字コード・日付書式)、対象範囲、テーブル間の
関連の保持の可否、提供までの日数、費用の有無をご教示ください。
定めがない場合は、その旨をご回答ください。
6.【引き継ぎ支援】将来、保守体制を見直す場合に備えてお伺いします。
他社への引き継ぎ支援について、契約上の定めの有無、提供いただける
作業内容、想定される時間と単価、成果物をお教えください。
お手数をおかけしますが、〇月〇日までにご回答いただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。
新候補先へ送る5問
比較を成立させるには、こちらの条件を揃えて聞く必要があります。新候補先へは次を送ります。
〇〇株式会社
ご担当者様
保守委託先の検討にあたり、下記についてご回答をお願いいたします。
現行の契約範囲は別添のとおりです。同じ範囲を前提としたお見積もりを
お願いできますでしょうか。
1.【引き受けの前提条件】お見積もりにあたり、必ず必要となる資料・
情報を一覧でお教えください。それが揃わない場合に、お見積もりへ
どのような前提や割増を置かれるかもご教示ください。
2.【引き継ぎ期間の費用】引き継ぎのための現行調査・環境再現・
体制立ち上げについて、保守料とは分けてお見積もりください。
作業内容と工数、単価の内訳をお示しください。
3.【並行稼働の想定】現在の保守会社との並行期間を何ヶ月見込まれますか。
その期間中、一次対応をどちらが行う前提でしょうか。
4.【資料が不足していた場合】引き受け後に、資料に記載のない仕様や
未知の不具合が判明した場合、どのように扱われますか。追加費用の
発生条件と、その判断の手順をお教えください。
5.【将来の引き継ぎ条件】御社との契約を終了する場合の、解約予告期間、
データ出力の条件(形式・範囲・テーブル間の関連の保持・提供までの
日数・費用)、資料の引き渡し範囲を、契約条項としてご提示
いただけますでしょうか。
〇月〇日までにご回答いただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。
新候補先への質問5は、必ず入れてください。 出口の条件を最初に聞ける相手かどうかは、その会社の姿勢がよく出る質問です。ここで条項として提示できる会社なら、次に変更を検討するときも同じ手間で済みます。
回答をどう読むか
| 回答の様子 | 読み取れること | 次の行動 |
|---|---|---|
| 現ベンダーの6問すべてに書面で回答が返る | 出口の条件が確定している | 比較の検討に進んでよい。継続の判断も同じ材料でできる |
| 質問4(残存課題)に「特になし」とだけ返る | 記録がないか、洗い出していない可能性がある | 障害履歴と作業実績(質問3)の未クローズ項目から自社で確認する |
| 質問5(データの出口)に契約の定めがない | 出口条件が未確定の状態 | 逆算表②の通知期限より前に、覚書で条項4〜6を書面化する。更新後に依頼すると次の満了日まで動けない |
| 質問6(引き継ぎ支援)に「協力します」とだけ返る | 善意の範囲であり、量も期限も決まっていない | 時間・単価・成果物の3点を書面で求める |
| 質問2の資料が未整備で、整備の見積もりが出てくる | 整備費用と、逆算表⑤の資料受領期限が両立するかが判断材料になった | 整備の完了日が⑤に間に合うかを先に確認する。間に合わないなら今期は更新し、次の満了日を目標にする |
| 質問1で解約の期限だけ回答が曖昧 | 契約書と運用がずれている可能性がある | 契約書の条項番号を指定して再照会し、逆算表②の日付を確定させる |
| 新候補先が質問1(前提条件)に答えず金額だけ出す | 前提を置かずに出した見積もりの可能性がある | 前提条件の明示を再依頼する。出ないなら比較対象にしない |
この表の使い方は1つだけです。回答の返らなかった項目には4状態の表で「判断不能」を立て、前掲の逆算表②の通知期限までに埋まるかどうかで、動くかどうかを決めてください。 期限までに埋まらないなら、今期は更新して整備に充て、次の満了日を目標にするほうが結果的に早く進みます。期限を過ぎてから動き出すと、ここまでの手順はどれも使えません。
「変更しない」という結論も、同じくらい正しい
ここまでの確認を終えた結果、現ベンダーの継続が合理的だと分かることは十分にあります。次の状況では、変更しないほうが合理的です。
| 状況 | なぜ継続が合理的か | 継続する場合にやること |
|---|---|---|
| 資料と権限が揃っており、他社と比較したうえで現ベンダーが妥当だった | 比較が成立している。これが最良の状態です | 逆算表①②の日付だけ管理台帳に残し、次の満了日に同じ比較を繰り返す |
| システムの更改(作り替え)が1〜2年以内に決まっている | 移管の費用を払っても、回収する期間が残っていない | 更改の発注要件に、7条項のうち4〜7を最初から書き込む |
| 現ベンダーが業務そのものに深く関与しており、代替に業務知識の再構築が必要 | 引き継ぎ対象がシステムだけでは済まない | 業務知識側の文書化を、次回更新の交渉材料として見積もり依頼する |
| 現在の費用の内訳と作業実績が毎月報告されている | 検証可能な状態が維持できている | 報告の様式を契約の別紙に固定し、担当者の交代で途切れないようにする |
| 資料整備の見積もりが出ており、整備後に比較する計画がある | 順序が正しい。整備前の乗り換えは判断材料がない | 整備の完了日が逆算表⑤に間に合うかを先に確定させる(間に合わない場合の進め方は前章のとおり) |
逆に、次の状態は「継続」ではなく「先送り」です。費用の内訳が出てこない、作業実績が報告されない、資料の所在が分からない。 この3つが揃っているなら、変えるかどうか以前に、いま何を買っているのかが分かっていません。
第三の選択肢|一部を自社で持つ
「全部を任せる」か「全部を別の会社へ移す」かの二択にする必要はありません。監視・定常作業・問い合わせの一次受けなど、切り出しやすい範囲から自社に戻し、外部委託の範囲を段階的に見直すという進め方もあります。
判断の起点は、直近1年で自社の業務知識がないと決められなかった作業がどれかを洗い出すことです。そこは外に出しても往復が発生します。逆に、手順が決まっている作業は、担当を移しやすい領域です。社内で開発・保守の一部を担う体制の作り方はClaude Code × 情シス・社内SEの内製化にまとめています。
なお、システムそのものを作り替える判断まで視野に入る場合は、保守会社の変更とは別の意思決定になります。移管の費用をかける前に、更改の時期と重ならないかを確認してください。
根拠資料と適用条件
本記事で使用した資料と、その適用範囲です。前提が違う資料をまとめて扱わないでください。
| 資料 | 発行 | データの年代・版 | 区分 | 本記事での使い方 | 適用上の注意 |
|---|---|---|---|---|---|
| デジタル社会推進標準ガイドライン DS-100 デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン | デジタル庁(文書に「2025年(令和7年)5月27日 デジタル社会推進会議幹事会決定」と記載)/2026年8月21日取得 | 2025年5月27日決定 | 一次資料A | 第3編 第7章「引継ぎ」(p.74)、第9章「運用及び保守の引継ぎ」(p.87)、第5章 要件定義の「引継ぎに関する事項」(p.58) | 政府情報システムを対象にした政府内の共通ルールであり、民間企業に適用義務はない。節番号はPDFの自動採番のため本文では章と節タイトルで引用している |
| 情報システム・モデル取引・契約書<第二版>(受託開発(一部企画を含む)、保守運用) | 独立行政法人情報処理推進機構/経済産業省(公開ページ:IPAデジタル基盤センター)/2026年8月21日取得 | 表紙に「〈第二版〉R1」「2025年 4月 R1」「2020年12月」と記載。公開ページの表記は2020年12月22日公開・当該ファイルは2025年4月8日更新 | 一次資料A | 工程解説「⑭ 保守」における、ユーザに求められる管理の記述 | 追補版には「モデル取引・契約書第二版は、対等の交渉力を有するユーザ(民間大手企業等)とベンダ(情報サービス企業)を想定している」と明記されている。中小規模のシステムや、法務・IT の専任者がいない発注者に当てはめる際は、この前提を踏まえて読む必要がある |
| 情報システム・モデル取引・契約書<第二版 追補版>R1(パッケージ、SaaS/ASP活用、保守・運用) | 独立行政法人情報処理推進機構/経済産業省(作成:モデル取引・契約書見直し検討部会 民法改正対応モデル契約見直し検討WG)/2026年8月21日取得 | 表紙に「2025年4月 R1/2020年12月」と記載 | 一次資料A | 「中小企業等」の定義、SaaS/ASP選定チェックリストの「途中解約」「サービス廃止時の対応」、SaaS向けSLAモデルケースの「データ消去の要件」 | チェックリストとSLAモデルケースはパッケージ・SaaS/ASPが対象で、受託開発システムの保守契約を対象にしたものではない。SLAモデルケースの節に記載されている参照先はURLのみで、文書名・発行元・公表日は追補版には書かれていない。参照先アーカイブの本文も、経済産業省側の原資料も本記事では未照合。 設定例の数値は「個々の状況に応じて決定されるべき」とされており、一般的な基準ではない |
| 民法(明治二十九年法律第八十九号) | e-Gov法令検索(デジタル庁)/2026年8月21日取得 | 2026年8月21日時点の施行版 | 一次資料A | 第648条第3項、第651条、第652条(第620条の準用) | これらは当事者間に取り決めがない場合の規定であり、実際の契約書には別段の定めが置かれるのが通常。個別の契約解釈と条項の有効性の判断は弁護士の領域 |
| 保守契約規約 | ラディックス株式会社/2026年8月21日取得 | 付則に「制定:1996年4月1日/改定:2017年11月1日」と記載 | 一次資料A(公開約款) | 基本条項第4条(解約)、第14条(対象外作業のうちデータ関連)、個別条項(ハードウェア)第3条・個別条項(カウンター契約)第6条の自動延長 | 情報通信機器、複写機・複合機(カウンター契約機・キット契約機)、同社指定の業務管理ソフトが対象。受託開発の個別保守契約ではない。有効期間は「各個別条項にて定める」構造で、自動延長の定めはハードウェアとカウンター契約の個別条項にあり、ソフトウェアの個別条項には無い。文書の日付が古く、当該ページが最新版かどうかは未確認 |
| ソフトウェア保守サービス契約条項 | 株式会社エスアイ・システム/2026年8月21日取得 | 改定告知日2025年9月12日・適用日2025年10月15日 | 一次資料A(公開約款) | 第6条(保守料金・返還不可)、第8条(契約期間・自動更新)、第9条(解約及び変更)、第21条(データの取扱い) | 自社パッケージソフトウェアの保守約款。約款本体のみを確認しており、同社が別途定める解約手続きの方法と、当該ページが最新版かどうかは未確認 |
| 保守契約約款 | 株式会社デジタルキューブ/2026年8月21日取得 | 2025年8月26日改定 | 一次資料A(公開約款) | 第2条(準委任契約による委託)、第11条(期間・自動延長・保守サービス履歴の抹消)、第12条(途中解約) | WordPressサイトの保守が対象。抹消の対象は事業者側が管理する保守サービス履歴であり、顧客の業務データの取扱いを定めたものではない。当該ページが最新版かどうかは未確認 |
| 年間保守サポートサービス規約 | ゾーホージャパン株式会社/2026年8月21日取得 | 2017年5月1日制定・2021年4月14日改定 | 一次資料A(公開約款) | 第3条(申込)、第4条(本サービスの範囲・準委任形態・データ復元の除外)、第9条(契約期間)、第10条(解約)、第16条(連絡) | 自社製品の保守規約。再申込みを認めない定めはこの事業者の規約に固有のもので、業界の標準ではない。当該ページが最新版かどうかは未確認 |
| クラウドサービス事業者による契約終了後のデータ取り扱い実態調査レポート(Assured調べ) | Assured, Inc./2024年5月15日公開 | 調査日2024年5月9日。調査件数は項目により異なる(2,192サービス/2,141サービス) | 条件付きB(事業者による自社調査) | 契約終了後のデータ取り扱いが不明確な割合、削除しない割合 | 対象はAssuredのセキュリティ調査に回答済みのクラウドサービス事業者であり、受託開発システムの保守契約の統計ではない。同レポートは引用時に「Assured調べ」の記載を求めている |
| 第三者保守・EOSL延命保守サービスについて | 株式会社ゲットイット/2026年8月21日取得 | 現行ページ | 一次資料A(1社の公開サービス条件) | 第三者保守の定義、対象範囲、メーカー保守から移行した場合に受けられなくなるサービス | 1社が公開しているサービス条件であり、第三者保守事業者に共通する条件ではない |
| 本記事のチェックリスト20項目・7条項・4状態の表・確認質問・逆算表・3つの型の分類・用語の整理表・データ出力の5軸表・見積書の記載パターン表・費用構造表・請求が正当と言えるケース・回答の読み方・継続が合理的なケースの表、および民間実務の傾向に関する記述 | koromo編集部 | — | 一般的な確認観点 | 契約書と資料の確認手順の整理 | 価格相場の根拠ではない。特定の契約に対する法的助言でもない |
チェックリスト・判定表・確認質問の文言は、上記の公的資料と公開約款の記載を参考に一般化したものであり、特定の資料からの直接の引用ではありません。原典からの引用箇所は、本文中で引用ブロックまたは表内で出典を示しています。
引き継ぎ費用・移管費用の金額の目安は、本記事では示していません。 算定根拠が公開されている一次資料を確認できなかったためです。検索すると金額のレンジを示す記事はありますが、算定の前提(対象システムの規模、資料の整備状況、並行期間の有無)が示されていないものが大半で、自社の判断には使えません。本記事では代わりに、見積書の行を作業単位へ分解し、単位と数量を書いてもらう手順を示しています。
なお本記事は、法的な最終判断を提供するものではありません。契約の解釈、条項の有効性、解約に伴う損害賠償の要否については、弁護士にご確認ください。
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