SAP保守費用の仕組み|22%の料率・ECC延長保守「+2%」・アドオン保守の分け方
SAP保守費用の22%という料率は、何に対する22%なのかがSAP公式ページには書かれていません。定率保守という課金モデルの構造、ECC延長保守「+2%」の正確な条件、2026年7月に発効した保守慣行の適合措置を、公式記載から確認する手順にまとめました。

SAP保守費用について社内で説明を求められたとき、いちばん困るのは「22%です」という答えが返ってきた先です。22%と言われても、何に対する22%なのか、その22%で何を買っているのか、来年も22%なのかが分からない。分からないまま毎年同じ金額を払い続けている、という状態から抜け出すための記事です。
この記事では相場や値下げ交渉の話はしません。手元の見積書と契約書を開いて、料率・分母・対象範囲の3つを特定し、確認できなかった項目をベンダーに書かせるところまでを扱います。SAPを例にしていますが、後半で扱う「標準機能とアドオンで保守費が違う理由」は、パッケージ製品を導入した企業ならメーカーを問わず同じ構造になります。
TL;DR|22%は「料率」であって、あなたが払う保守費の総額ではない
- 「2027年から保守料が一律24%になる」は、SAPの公式記載と食い違います。 公式記載では、延長保守は任意に選ぶオプションで、期間は2028年初から2030年末までの3年間、保守料の算定基礎に対して2パーセントポイントを上乗せするものです。主流の保守は2027年末まで続きます
- 2026年7月10日付で、SAPのオンプレミス保守の前提が変わりました。 SAPは欧州委員会の競争法上の決定を受けて、部分解約・復帰時の費用・当初期間の扱いなどについて全世界・全オンプレミス製品・10年間の適合措置を公表しています。2026年以降の更新交渉は、この前提で臨む必要があります
- 22%はSAPの公式ページに実在する数字です。 ただし原文は「新しいオンプレミス購入に対する SAP Enterprise Support のリスト価格」であり、**リスト価格(定価)**の話です。実際に自社へ適用される率は、契約書の付属書または注文書側に書かれています
- 公式ページには「何に対する22%か」の完全な定義がありません。 分母が分からないまま料率だけを議論しても結論は出ません。最初にやることは値下げ交渉ではなく、分母の特定です
- 公式ページの記載は「2025年まで」という期限付きです。 2026年8月19日に確認した時点でも、英語版・日本語版ともこの文言のまま残っていました。つまり2026年以降のリスト価格は、このページからは確認できません
- あなたが払っている「SAP保守費」は、たいてい3つの層の合計です。 SAPへ払うライセンス定率のサポート料、導入パートナーへ払う運用保守費、そしてアドオン・カスタマイズ部分の保守費。この3つは課金の決まり方がまったく違います
- 標準機能とアドオンで保守費が違うのは、直す人が違うからです。 標準機能の不具合はメーカーが直して配りますが、アドオンは配られてきた更新に自社側で追随する作業が毎回発生します
- 判断は「妥当/不当」ではなく、説明済み/要確認/高リスク/判断不能の4状態で行ってください。値段の話に入れるのは、この仕分けが終わってからです
SAPの保守費は3つの層に分かれている|見積書ではどう書かれているか
保守費の議論が噛み合わなくなる最大の原因は、経営側が「SAPの保守費」と呼んでいるものと、担当者が「SAPの保守費」と呼んでいるものが違うことです。実務上は、少なくとも次の3つの層が混ざっています。
| 層 | 誰へ払うか | 何に対して払うか | 課金の決まり方 |
|---|---|---|---|
| 層1|サポート料 | SAP(またはSAP認定のサポート提供事業者) | ソフトウェアそのものの不具合修正、更新版の提供、問い合わせ窓口 | 保有ライセンスに対する定率 |
| 層2|運用保守費 | 導入パートナー・SIer・自社情報システム部門 | 日々の問い合わせ対応、運用作業、監視、障害の一次切り分け | 人の作業量(工数)または月額固定 |
| 層3|アドオン保守費 | 開発したベンダー(層2と同じ会社のことが多い) | 自社向けに作った追加機能の維持、更新への追随、改修 | 開発資産の量・更新の頻度 |
3つのうち定率で決まるのは層1だけです。層2と層3は人が動く量で決まります。ここを混ぜたまま「保守費が高い」と言っても、下げられる先が特定できません。
層1|SAPへ払うサポート料(ライセンス定率)
ソフトウェアのメーカーに払う費用です。不具合の修正プログラムや更新版を受け取る権利、問い合わせ窓口を使う権利がここに含まれます。保有しているライセンスの金額に料率を掛けて決まるため、今年たまたま問い合わせが1件もなくても金額は変わりません。これが「作業していないのに同じ金額を払っている」と感じる原因です。
経営判断への影響としては、この層は使用量ではなく保有量で決まる固定費だと理解しておく必要があります。削減の打ち手は「使わないようにする」ではなく「保有を見直す」または「サポートの種類を変える」になり、どちらも契約条件の制約を強く受けます(後述の「使っていないライセンスの保守をやめられるか」で扱います)。
層2|導入パートナー・SIerへ払う運用保守費(工数)
実際に人が動く部分です。ユーザーからの問い合わせ対応、マスタ登録の代行、月次処理の見守り、障害が起きたときの一次切り分け。ここは人の稼働なので、対応時間帯・応答目標・作業時間の上限といった条件で金額が変わります。
この層の見方は、SAPかどうかとは関係のない一般的な保守見積もりの読み方と同じです。システム保守見積書の見方で扱っている、作業・待機・実費の切り分けをそのまま適用してください。
層3|アドオン・カスタマイズ部分の保守費
自社向けに追加開発した機能の維持費です。この層が、標準パッケージを買ったはずなのに保守費が想定より大きくなる主因になります。後半の「標準機能とアドオンで保守費が違う理由」で詳しく扱います。
見積書の記載例と、そこから読み取れないこと
同じ費用でも、見積書での書かれ方によって判定が変わります。金額ではなく書かれ方だけを並べたものが次の表です。
| 見積書での書かれ方 | そこから読み取れないこと | 判定 |
|---|---|---|
| 年間サポート費 一式 | どの層が含まれるのか。料率も分母も対象範囲も分からない | 判断不能 |
| SAPライセンス保守(22%) | 22%を掛ける相手(分母)と、対象ライセンスの範囲 | 要確認 |
| ERP保守サポート費 月額 | 定率なのか工数なのか。年額を12で割っただけの表示のことがある | 要確認 |
| アドオン保守 月額 | 対象アドオンがどれか。バージョンアップへの追随が含まれるか | 要確認 |
| バージョンアップ支援費 一式 | 標準側の作業かアドオン側の追随作業か。今回限りか毎回発生するか | 要確認 |
| 保守費(前年同額) | 前年から何も変わっていないのか、変わったが相殺されたのか | 要確認 |
| 延長保守費(2028年〜) 一式 | 選ばなかった場合の金額と、そのとき受けられるサポート内容。片側しか出ていないため比較ができない | 高リスク |
| 保守サポート費 料率○% 算定基礎○円(対象ライセンス一覧は別紙) | ― (料率・分母・対象が揃っている) | 説明済み |
表の下から2行目までが、実務でよく見る書かれ方です。 最後の1行の形になるまで分解させることが、この記事の目標になります。
「一式」の1行しかない見積書で起きること
見積書に「SAP保守費 一式 ○○円/年」としか書かれていない場合、3つの層が1行に丸められています。この状態で起きることは3つです。
- どの層が増えたのかが分からないので、増額の説明を受けても検証できない
- 層1は交渉余地が小さいのに、層2・層3の話と混ざって「全部下げてほしい」という不成立な要求になる
- アドオンを減らしても金額が下がらない(層3が独立していないため、減らした効果が見えない)
見積書の項目が「一式」でまとめられているときの一般的な分解の考え方は、システム保守費用の相場と妥当性でも扱っています。
22%はSAP公式にどう書かれているか|原文と、そこに書かれていない3つのこと
ここが本記事のいちばん重要な部分です。数字そのものより、その数字がどういう限定つきで書かれているかが、あなたの契約の読み方を決めます。
公式ページの記載(2026年8月19日確認)
SAPのサポートサイトにある SAP Enterprise Support のページには、次の一文があります。
The list price for SAP Enterprise Support for new on-premise purchases remains fixed at 22 percent until 2025.
日本語版の同じページでは、次のように訳されています。
新しいオンプレミス購入に対する SAP Enterprise Support のリスト価格は、2025 年まで 22% のままです。
出典: SAP「SAP Enterprise Support」(英語版 / 日本語版)2026年8月19日取得。
この一文には、限定が3つ入っています。**「新しい」「オンプレミス購入に対する」「リスト価格」**です。既存契約の話でもなければ、クラウドサブスクリプションの話でもなく、実際の契約金額の話でもありません。
書かれていないこと1|分母(算定基礎)の完全な定義
このページには「何に対する22%か」が書かれていません。 「リスト価格は22%」とだけ書かれていて、その22%を掛ける相手が明示されていないのです。
SAPの別の公式ページでは、保守料の算定基礎を指す語として maintenance basis および maintenance base という表現が使われています。つまりSAP自身も「算定の基礎になる金額」という概念を明確に持っています。本記事では以降、この算定基礎にあたる金額を「分母」と呼びます。
分母について公開ページから分かることは、次の2点までです。
- 顧客ごとに個別のものである。SAPの Strategy ページは "the customer's individual maintenance base"(顧客個別の maintenance base)という書き方をしています
- 再計算はボリュームリスト価格の割引にのみ基づく。同ページに "This re-discounting will be done based on volume list price discounts only." とあります
つまり分母の完全な定義は公開ページにはありませんが、「顧客ごとに個別で、割引構造と結びついている」ところまでは公開されています。
では、金額そのものはどこに書いてあるのか。SAPが公開している国別の Enterprise Support Schedule(サポート条件を定めた契約付属文書)には、次の一文があります。
Enterprise Support Fees. SAP Enterprise Support Fees shall be paid annually in advance and shall be specified in appendices or order forms under the Agreement.
出典: SAP「SAP Enterprise Support Schedule」第5条。シンガポール版(enSG.v.8-2022)/オーストラリア版(enAU.v.8-2022)/インド版(enIN.v.8-2022)の3版で同一文言。2026年8月19日取得。
金額は契約の付属書または注文書に書かれる、と書いてあります。つまり分母と実際の料率を確認する場所は、公開ページではなく自社の契約書一式です。手元にあるのが請求書だけなら、注文書と付属書を取り寄せるところから始めてください。
なお上記スケジュールには適用条件が2つあります。第一に、日本版が公開ファイルとして確認できませんでした(推測したURLはいずれも参照できず)。第二に、この v8-2022 という版は改定が予告されています。SAP自身が2026年7月の適合措置の告知ページで、General Terms & Conditions、注文書のテンプレート、Enterprise Support Schedule、Standard Support Schedule を調整して公開すると書いています。本記事が引用する条項は、改定前の版に基づくものとして読んでください。
書かれていないこと2|2026年以降のリスト価格
引用した一文は「2025年まで」という期限つきです。2026年8月19日に確認した時点でも、英語版・日本語版ともこの文言のままでした。
これが意味するのは、「2026年以降も22%である」とも「22%ではない」とも、この公式ページからは判断できないということです。したがって本記事では、2026年以降のリスト価格は未確認として扱います。
ただし、価格の数値が更新されていないことと、保守の慣行が変わっていないことは別です。 次章のとおり、SAPは2026年7月10日付でオンプレミス保守・サポートの慣行そのものに関する適合措置を公表しています。更新交渉の前に、価格表ではなくそちらの原文を必ず確認してください。
この記事を読んで最初にやるべきことは、22%が正しいかを調べることではありません。 自社の契約書に書かれている料率と分母を確認することです。リスト価格は定価であり、実際の契約は割引後の金額で結ばれている場合があります(SAPの Strategy ページが再割引について "volume list price discounts" に言及していることからも、割引構造の存在は公開情報として読み取れます)。
書かれていないこと3|あなたの契約に適用される率
同じページには、値上げの条件についての記載もあります。
SAP will not increase fees for existing SAP Enterprise Support contracts during the initial period (1) and first renewal period (2,). After the contract is out of the initial price lock SAP may increase the support price by CPI on yearly basis, subject to contract terms (3).
期間の定義も同じページに書かれています。
standard initial period: Remainder of current calendar year plus following full calendar year (e.g. contract closed in February 2021 → Initial period till December 2022)
first renewal period: Full calendar year following initial period (same example as above: First renewal period ends December 2023)
出典: 前掲 SAP「SAP Enterprise Support」ページ。2026年8月19日取得((2,) は原文ママ。日本語版では「初回更新期間 (2)」)。
読み解くと、こうなります。契約直後の一定期間は料金が上がらないが、その期間が終わると消費者物価指数(CPI)に連動して年次で上がりうる。ただし契約条件による。原文の "subject to contract terms" という限定は落とさずに読んでください。上がるかどうかは、最終的に自社の契約書に何が書いてあるかで決まります。
同ページには、切り替えに伴う費用についての記載もあります。
Additional fees may apply with support provider switches, changes to the contracting parties or support service switches, including CPI increases carried over accordingly.
「サポート提供業者の交代、契約当事者の変更、サポートサービスの切り替え」に伴って追加料金が適用されることがあり、その中には繰り越されたCPI上昇分も含まれる、と書かれています。サポートの提供元を変える判断には、切り替えそのもののコストが伴いうるということです。
2026年7月10日に、SAPのオンプレミス保守の前提が変わった
ここは、2026年に契約更新を迎える企業にとって最も重要な章です。本記事が引用している他の資料の一部は、この適合措置によって扱いが変わります。
何が起きたのか
SAPのサポートサイトには、次の告知が掲載されています。
SAP has agreed to a set of key adaptations to enhance flexibility, transparency, and predictability of SAP's on-premise ERP maintenance and support practices. Effective July 10, 2026, these improvements apply globally to all current and future SAP customers across all on-premise products. The commitment period is 10 years from the European Commission's decision adopted under EU competition law as of July 10, 2026.
出典: SAP「SAP Maintenance & Support Commitments」2026年8月19日取得。
要点は3つです。適用範囲は全世界・全オンプレミス製品・既存顧客と将来の顧客の両方。SAPが示す発効日は2026年7月10日。期間は欧州委員会の決定から10年間。
対応する欧州委員会側の発表もあります。
The European Commission has accepted commitments from SAP to address EU competition concerns relating to its aftermarket support services for on-premises Enterprise Resource Planning (ERP) software. These commitments are now legally binding under EU antitrust rules.
出典: 欧州委員会「Commission accepts binding commitments by SAP to address competition concerns about services for its popular business management software」(文書番号 IP/26/1554、Brussels, 9 July 2026)2026年8月19日取得。
欧州委員会のプレスリリースの日付は2026年7月9日、SAPが示す発効日は2026年7月10日です。SAPのページは委員会の決定日そのものも2026年7月10日と記載しているため、プレスリリースの日付とは1日ずれます。社内資料に書くときは、どちらの日付を指しているかを明示してください。
なお本記事では、SAPが公表したこの一連の措置を以降「適合措置」と呼びます。SAP自身の呼称は commitments、EU競争法上は理事会規則1/2003第9条1項に基づく**確約決定(commitments decision)**にあたります。原典を検索・照会するときは、これらの語と case number AT.40823 を使ってください。
欧州委員会が予備的に問題視した4つの慣行
欧州委員会は2025年9月に正式調査を開始し、次の4つの慣行が競争を制限しうると予備的に判断したと発表しています。この4つは、そのまま「保守費が下げられない理由」として現場で起きていたことです。
- 未使用ライセンスの保守を解約できないようにしていたこと(その結果、顧客が望まないサービスに払っていた可能性)
- 一度離れた顧客が戻るときの reinstatement fee と back-maintenance fee(場合によっては、ずっと契約を続けていた場合と同額になっていた)
- オンプレミスERPライセンスの当初期間を組織的に延長していたこと(その期間中は保守の解約ができない)
- すべてのSAPオンプレミスERPソフトウェアについて、SAPから保守を受けること、かつ同じ種別・同じ価格条件を選ぶことを求めていたこと(異なる供給元・価格・サポート水準を組み合わせることを妨げていた可能性)
出典: 前掲 欧州委員会 IP/26/1554。同発表は、これらがEU機能条約102条およびEEA協定54条に違反しうるとの予備的判断であったとしています。最終的な違反認定ではなく、SAPが提示した是正措置を委員会が受け入れて拘束力を持たせた決定です。この性格は落とさずに理解してください。
SAPが公表した主な適合措置
SAPの告知ページから、費用に直接効くものを整理します。
| 論点 | 公表されている内容 |
|---|---|
| 全部か無しかの原則 | ランドスケープを複数の Commercial Installation に分割でき、その単位ごとに、異なるサポートモデル・異なる提供事業者・サポート無しのいずれかを選べるようになる。関連する契約条項が更新される |
| 復帰時の費用 | Reinstatement Fee を全廃。Back-Maintenance Payment は「サポートを受けていなかった期間(Off Support Period)に本来支払うべきだった額の50%」または「6か月分の支払額」の低いほうを上限とする |
| 当初期間 | 追加ライセンスを購入するたびに当初期間が再スタートすることはない。Commercial Installation の分割も新たな当初期間を発生させない |
| 単一指標契約 | 合意した単一の指標(例:従業員数)で分母を算定する契約。契約時の支払額が50万ユーロ超の顧客に提供(原文は "the fees payable under the contract"。年額なのか契約総額なのかは同ページからは特定できません)。監査で使用が下回っていることが判明した場合、SAPは**年あたり最大20%**まで分母を減額する |
| 再割引なしの解約 | 次の4ケースでは、ランドスケープ分割を経ずに、かつ再割引なしでライセンスと保守を解約できる |
「再割引なしの解約」ができる4ケースは、SAPの告知ページでは次のように書かれています。
- 顧客固有保守(customer specific maintenance)しか選べない段階に入っている製品
- Failed Implementation(実装失敗)がある製品
- 倒産または破産の場合
- 2年間で10%以上の人員削減があった場合(2025年1月1日に遡って適用)
この4ケースについては、SAP側の告知と欧州委員会側の発表で書かれ方が違います。 実装失敗について、委員会は "where the responsibility for the failure is on SAP"(失敗の責任がSAP側にある場合)と責任の所在を明示しています。人員削減について、委員会は "customers will have the possibility to reduce 10% of their licences and related M&S costs"(ライセンスの10%を削減できる)と、削減できる割合まで示しています。SAP側の告知には、この2つの限定が書かれていません。
人員削減の閾値そのものも表記が揃っていません。委員会の発表は "of 10% or more"(10%以上)、SAPの告知は "by more than 10% or more" と、そのままでは意味の取れない書き方になっています。ちょうど10%の場合に該当するかどうかは、書面でSAPに確認してください。
なお、事業売却(divestiture)の場面についても、買い手へのライセンス移管や残りの解約が再割引や移管手数料なしでできるとされています。欧州委員会の発表では、この事業売却を加えた5つの場面として1つの項目に整理されています。数え方が資料によって違うので、社内で共有するときは典拠を添えてください。
申立先が用意されている
もう1つ、実務で使える措置があります。SAPが確約を正しく適用していないと顧客が考えた場合の申立先が設けられました。欧州委員会は、SAPが "create an internal clearing structure customers can turn to when they consider that SAP is not applying the commitments correctly"(確約を正しく適用していないと考えたときに顧客が頼れる社内の調整組織を設ける)と発表しています。あわせて、確約の履行は**SAPから独立した監視受託者(Monitoring Trustee)**が監視し、委員会へ定期的に報告するとされています。
出典: 前掲 欧州委員会 IP/26/1554。SAPの告知ページにも同趣旨の窓口が2つ挙げられていますが、2026年8月19日に確認した時点では、いずれも連絡先が未掲載(「追って掲載」の表示)でした。利用する場合は最新の掲載状況を確認してください。
この章が、あなたの見積書の見方をどう変えるか
3つあります。
- 「使っていない分の保守は解約できない」という前提で交渉を諦めていたなら、前提を更新してください。 2026年7月10日以降、SAPは複数の選択肢を公表しています
- 過去にSAPの保守を離れていて、戻ることを検討していなかったなら、費用の前提が変わっています。 Reinstatement Fee は全廃されたとされています(ただし Back-Maintenance Payment は上限つきで残ります。復帰費用がゼロになるという意味ではありません)
- 本記事の後半で引用する契約スケジュール(v8-2022)は、改定が予告された版です。 そこに書かれた条項をそのまま自社の現状だと考えず、改定後の版が自社の契約に反映されているかを確認してください
詳細な実施条件は、SAPが公開している個別の方針文書(SAP Support Reinstatement Program、Landscape Split Program、Single Metric Program など)に書かれています。ただしこれらの文書には配布制限の表示があるものが含まれるため、本記事では内容を引用していません。 自社の担当営業またはパートナー経由で入手してください。
ライセンス定率保守という課金モデルの構造
前章の適合措置は、この課金モデルの上に効いてくるものです。まず土台のほうを整理します。「料率×分母」という形は §3 で見たとおりですが、次はその料率で何を買っているのかを押さえます。ここを理解しないと、社内でも社外でも説明ができません。以下、本記事ではこの課金モデルを「定率保守」と呼びます。
定率保守で実際に費用を生んでいるもの
定率保守は、あなたの会社1社のために発生した作業への対価ではありません。メーカーがソフトウェア製品全体に対して継続的に投じているコストを、利用企業で分担する仕組みです。具体的には次のようなものが原資になります(一般的な確認観点であり、特定メーカーの内訳の公開値ではありません)。
- 不具合の調査と修正プログラムの作成、およびその配布
- セキュリティ上の問題への対応と修正の提供
- 対応OS・データベース・ブラウザなどの新しいバージョンへの動作確認
- 制度変更への対応(対応する製品・国・条件は製品ごとに異なります)
- 問い合わせ窓口の維持
この構造の帰結として、あなたの会社が今年1度も問い合わせをしなくても、金額は変わりません。 修正プログラムは作られ続けており、それを受け取る権利を持ち続けているからです。逆に、大きな不具合に何度も遭遇した年も金額は変わりません。
経営判断への影響は明確です。定率保守は「使った分だけ払う費用」ではなく、「資産を維持するための固定費」として扱う必要があります。 稟議やコスト削減計画で「今年は問い合わせが少なかったので減らせるはず」という前提を置くと、必ず外れます。
定率保守と工数積み上げ保守の違い
| 観点 | 定率保守(層1) | 工数積み上げ・月額固定の保守(層2・層3) |
|---|---|---|
| 金額の決まり方 | 分母(保有ライセンス額など) × 料率 | 作業量・体制・対応時間帯 |
| 使わなかった年 | 金額は変わらない | 契約形態により、上限内なら変わらない/実績精算なら下がる |
| 下げる打ち手 | 分母の見直し、サポート種別の変更、契約形態の変更 | 対応範囲・時間帯・応答目標の見直し |
| 交渉の余地 | 小さい(メーカーの標準条件に従う部分が大きい) | 相対的に大きい |
| 増額の主因 | 追加ライセンス購入、物価連動条項、延長保守の選択 | 対応範囲の拡大、アドオンの増加、体制の増強 |
| 見積書での見え方 | 「サポート料」「ライセンス保守」など | 「運用保守」「月額保守」「アドオン保守」など |
同じ「保守費」という言葉でも、下げ方がまったく違います。 保守費の削減を検討するときは、まずこの表のどちらの話をしているのかを確定させてください。
定率保守で「買っている中身」は年次で変わりうる
見落とされやすい論点があります。料率が同じでも、その料率で受け取れるサービスの内容は固定されていない場合があります。前掲の Enterprise Support Schedule には、次の条項があります。
The scope of SAP Enterprise Support offered by SAP may be changed annually by SAP at any time upon three (3) months' prior written notice.
出典: SAP「SAP Enterprise Support Schedule」第9.1条。シンガポール版・オーストラリア版・インド版(いずれも v8-2022)で同一文言。2026年8月19日取得。
サポートの提供範囲は、3か月前の書面通知によって年次で変更されうると書かれています。料率だけを見て「去年と同じ」と判断すると、中身の変化を見落とします。更新時には金額の比較だけでなく、提供内容の通知が届いていなかったかを確認してください。
ECC延長保守の「+2%」は一律値上げではない
「2027年」と「+2%」という数字は、SAPを使っている企業の間で最も誤解されている組み合わせです。ここは公式記載を分解して読みます。
ECC=SAP Business Suite 7|通称と公式記載の対応
ECCは、SAP ERP 6.0 を指して現場で広く使われている通称です(SAP ERP Central Component の略とされますが、本記事が確認した範囲のSAP公式ページにこの語の記載はありません)。SAPの公式記載では SAP Business Suite 7 という製品群の名前で書かれており、SAP ERP 6.0 はその中核にあたります。 以降の引用に出てくる Business Suite 7 は、現場で一般に「ECC」と呼ばれている範囲を含むものだと読んでください。ただし製品名だけで自社が対象かを判断せず、後述の対象製品表とバージョンで確認してください。
公式記載を分解する
SAPのサポートサイトの保守戦略ページには、次のように書かれています。
At the same time, SAP will provide mainstream maintenance for SAP Business Suite 7 core applications until end of 2027. This offboarding phase will be followed by optional extended maintenance until end of 2030.
Customer needing support for their Business Suite 7 core applications in longer conversion phases to SAP S/4HANA can choose the extended maintenance offering. This comes with a premium of two percent points on the maintenance basis for all support offerings for the scope of SAP Business Suite 7. It will be available for three years from beginning of 2028 until end of 2030.
出典: SAP「Innovation Commitment for SAP S/4HANA until 2040」2026年8月19日取得。ほぼ同一の内容が SAP「Strategy」ページにも掲載されています(冠詞・単複に微差があります)。
この2文を分解すると、次の4点になります。
| 論点 | 公式記載が言っていること |
|---|---|
| 選択の性質 | optional(任意)。"can choose" と書かれており、選ぶかどうかは利用企業側が決める |
| 期間 | 2028年初から2030年末までの3年間。「2027年から」ではない。主流保守(mainstream maintenance)は2027年末まで |
| 上乗せの量 | 2パーセントポイント(a premium of two percent points) |
| 上乗せの当て先 | 保守料の算定基礎=分母(the maintenance basis)に対して。対象は SAP Business Suite 7 の範囲に関するすべてのサポート提供形態(for all support offerings for the scope of SAP Business Suite 7) |
自社が対象に入るかを確認する
主流保守の対象として同ページが挙げているのは、SAP Business Suite 7 の中核アプリケーション(SAP Business All-in-One の中核アプリケーションでもあるもの)で、次の5つです。
| SAPの公式記載にある対象 | 自社の該当 | 現在のバージョン・版 |
|---|---|---|
| SAP ERP 6.0 | ||
| SAP Customer Relationship Management 7.0 | ||
| SAP Supply Chain Management 7.0 | ||
| SAP Supplier Relationship Management 7.0 applications | ||
| SAP Business Suite powered by SAP HANA |
公式記載には「最新の3つのエンハンスメントパッケージを含む」という限定が付いています。 エンハンスメントパッケージはメーカーが提供する機能追加の版のことで、古い版のままだと主流保守の対象から外れることがあるため、製品名だけでなく現在適用している版まで確認してください。3列目が埋まらない場合、その時点では「判断不能」です。
「2027年から一律24%」がなぜ違うのか
よく見かける「2027年から保守料が一律24%になる」という説明は、公式記載と2か所で食い違います。
- 時期が違う。延長保守は2028年初からで、2027年末までは主流保守の期間です
- 一律ではない。延長保守は任意に選ぶオプションであり、選ばなければ上乗せは発生しません
「24%」という数字自体は、料率が22%だった場合に2パーセントポイントを足すといくらになるかという計算結果としては成り立ちます。ただしこれはあくまで計算例であり、SAPが「24%」という数字を公表しているわけではありません。自社の分母と料率が分かって初めて、延長保守を選んだ場合の増加額が計算できます。
延長保守を選ばなかった場合
同じ公式ページには、選ばなかった場合の扱いも書かれています。
Customers who do not opt for the extended maintenance, or where extended maintenance has ended, will receive customer specific maintenance for their SAP Business Suite 7 applications.
延長保守を選ばない企業、および延長保守が終了した企業は customer specific maintenance(顧客固有保守) を受けることになる、と書かれています。この顧客固有保守に何が含まれ、何が含まれないかは、同ページからは確認できませんでした。 ページから参照されているSAP Note(52505番)はログインが必要なため、本記事では未確認として扱います。
ここは自分で確認すべき最重要ポイントです。 「保守は続く」という説明を受けたときに、続くのがどの区分の保守なのか、そこに新しい修正プログラムの提供が含まれるのかを、書面で確認してください。区分の名前が変わるだけで実質的な提供内容が変わる、という設計は珍しくありません。
参考までに、別のソフトウェアメーカーの公開ポリシーでは、この種の段階的な保守について、含まれないものを明示的に列挙しています。オラクルが公開している Oracle Software Technical Support Policies(2026年8月17日発効版、全33ページ)は、Sustaining Support という区分について、含まれないものを6項目挙げています。
Sustaining Support does not include: …
この区分で止まるのは次の6つです(左が原文、右が日本語)。
| 原文 | 日本語 |
|---|---|
| New program updates, fixes, security alerts, critical security patch updates, and critical patch updates | 新規の修正プログラム・不具合修正・セキュリティ警告・重要セキュリティパッチ・重要パッチ |
| New tax, legal, and regulatory updates | 新規の税務・法務・規制対応の更新 |
| New upgrade scripts | 新規のアップグレード用スクリプト |
| Certification with new third party products/versions | 新しいサードパーティ製品・バージョンとの動作認定 |
| 24 hour commitment and response guidelines for Severity 1 service requests as defined in section 9 - Severity Definitions | 最重要度(Severity 1)の問い合わせに対する24時間の対応コミットメントと応答目標 |
| Previously released fixes or updates that Oracle no longer supports | オラクルが既にサポートを終了した、過去にリリースされた修正・更新 |
出典: Oracle「Oracle Software Technical Support Policies」Effective Date: 17-Aug-2026。2026年8月19日取得。
これはオラクルの製品ポリシーであって、SAPの契約条件ではありません。 ここで示したいのは金額でも相場でもなく、「保守は続くが、新しい修正の提供は止まる」という設計が実在するという事実です。太字にした「新規の」が要点で、過去に出た修正は受け取れるが、これから出るものは受け取れないという切り分けになっています。自社の契約でも、区分が変わったときに新規の修正提供が続くかどうかを、必ず個別に確認してください。
見積書に延長保守が載っていたときの確認
見積書や更新案内に「延長保守」「Extended Maintenance」という項目が現れたら、次の3つを確認してください。
- 対象範囲:どの製品・どのバージョンが延長保守の対象になっているか。自社の全システムなのか、一部なのか
- 期間と終了後の扱い:いつからいつまでか。終了後はどの区分に移り、そこで提供内容がどう変わるか
- 選ばなかった場合の見積もり:延長保守を選ばない場合の金額と、そのとき受けられるサポートの内容
3番目が最も重要です。選択肢が2つあるはずなのに、見積書に片方しか載っていない場合、それは比較ができない状態です。両方を並べて出してもらってください。
標準機能とアドオンで保守費が違う理由
ここからは、SAPに限らずパッケージ製品全般に共通する話です。同じシステムの中でも、標準機能の部分とカスタマイズした部分では、保守費の発生の仕方が構造的に違います。
標準機能はベンダーが直す。アドオンは誰かが追随する
違いは一言で説明できます。直す人が違うからです。
| 観点 | 標準機能 | アドオン・カスタマイズ部分 |
|---|---|---|
| 不具合を直す人 | メーカー | 開発したベンダー、または自社 |
| 修正の届き方 | 修正プログラムとして全利用企業に配られる | 個別に調査・改修する |
| バージョンアップ時 | メーカーが新しい版を提供する | 配られた新しい版で動くように、こちら側で追随作業をする |
| コストの分担 | 全利用企業で分担(定率保守の原資) | 自社が全額負担 |
| 保守費への現れ方 | 定率保守のサポート料(層1) | 工数ベースの保守費、または改修の都度見積もり(層3) |
標準機能の不具合は、世界中の利用企業のうち誰かが遭遇すればメーカーが直します。その修正はあなたの会社にも配られます。修正1件あたりのコストは、全利用企業で薄く分担されていることになります。
アドオンにはこの仕組みがありません。自社のために作った機能の不具合に遭遇するのは自社だけなので、調査も改修も自社の費用で行います。同じ「1件の不具合」でも、標準機能とアドオンでは費用の出方がまったく違う、というのがこの構造の核心です。
バージョンアップのたびに発生する4種類の追随作業
もう一つの、そしてより大きな違いは、メーカーがバージョンアップするたびに、アドオン側で作業が発生することです。この作業は、少なくとも次の4種類に分かれます。
| 追随作業 | 何をするか | 費用が膨らむ条件 | 見積書での現れ方 |
|---|---|---|---|
| 影響調査 | 新しい版で変わった箇所のうち、自社のアドオンが依存している部分を洗い出す | アドオンの設計資料が残っていない | 「調査費」「アセスメント費」 |
| 改修 | 動かなくなる、または動作が変わる箇所を直す | 標準機能への依存が深い | 「改修費」「対応工数」 |
| 再テスト | アドオンが関わる業務のテストをやり直す。標準機能側の変更で間接的に影響を受ける範囲も含む | 業務が多岐にわたる/テスト資産が残っていない | 「テスト費」「検証費」 |
| 標準処理の突き合わせ | 標準の処理そのものに入れた変更と、新しい版の標準処理を1件ずつ照合し、どちらを残すか判断する | 標準機能に手を入れた箇所が多い・深い | 「移行対応費」「アップグレード対応費」 |
いちばん下の行が最も費用を生みます。 標準の処理に直接手を入れていると、メーカーが同じ箇所を改良するたびに衝突が起き、そのつど人が判断する必要が出ます。この作業量は、アドオンの本数ではなく標準機能に手を入れた箇所の数と深さに比例します。
経営判断への影響はこうです。アドオンの保守費が高いという指摘を受けたとき、減らすべきは「アドオンの本数」ではなく「標準機能への手の入れ方」であることが多い、ということです。本数を数えて議論すると打ち手を間違えます。
(この表と前掲の比較表は、契約書の読み方を整理するための一般的な確認観点であり、特定メーカーが公開している内訳ではありません。)
公開約款では「改良・仕様変更・機能追加」は保守に含まれない
「アドオンの保守は別」というのは、実際の契約書でどう書かれているのでしょうか。公開されている保守約款の実例を見ます。
株式会社エスアイ・システムが公開している「ソフトウェア保守サービス契約条項」には、次の一文があります。
甲からの要求による本ソフトウェアの改良、仕様変更及び機能追加は、本サービスの内容には含まれない。
出典: 株式会社エスアイ・システム「ソフトウェア保守サービス契約条項」改定告知日 2025年9月12日/適用日 2025年10月15日。2026年8月19日取得。
これは同社が開発した自社パッケージソフトウェアの保守約款であり、受託開発したシステムの個別保守契約ではありません。 それでも示唆は明確です。パッケージ製品の保守約款は、製品そのものを維持することを対象にしており、利用企業の要求で作った部分は対象外として設計されている、ということです。
同じ約款には、料金の見直しに関する条項もあります。
納品台数分を超える機器若しくは納品以外のオプションを使用する場合は、乙は保守料金の見直しを行うことができる。
対象が増えれば保守料も見直される、という条項です。保守費が「増えた分」に連動する設計が、約款のレベルで明示されている例になります。
保守契約に何が含まれ、何が含まれないかを契約書から判定する手順は、システム保守契約の範囲で詳しく扱っています。この約款を含む複数の公開約款を並べて比較しているので、自社の契約書がどの型に当たるかを見るときはそちらを参照してください。
SAPに限らない|パッケージ一般で同じ構造が出る
この構造はSAP固有のものではありません。メーカーが作った製品を買い、それに手を入れて使うという形をとる限り、パッケージの種類を問わず同じことが起きます。会計パッケージ、販売管理パッケージ、人事給与パッケージ、業種特化型のパッケージ。どれも、標準部分はメーカーが維持し、手を入れた部分は入れた側が維持します。
したがって、パッケージ導入の見積もりを見るときは、初期費用の内訳より先に「標準のまま使う範囲」と「手を入れる範囲」の比率を確認してください。この比率は、稼働後の保守費に長期にわたって効き続けます。
ベンダー側の言い分が正当と言えるケース
ここまでで、層1(定率保守)と層3(アドオン保守)の費用構造を見てきました。次は、それぞれについて「払うのが合理的」と言える条件を整理します。
定率保守もアドオン保守も、それ自体が不当な仕組みではありません。次の条件が揃っているなら、金額が高く見えても合理的と判断してよい場面です。
| ケース | ベンダー側の言い分 | 正当と言える条件 |
|---|---|---|
| 修正プログラムを継続して受け取っている | 定率保守の対価の中心は継続的な修正の提供である | 過去2年の適用実績が記録として出てくる |
| 制度変更への対応が製品側で提供されている | 自社開発なら個別に費用が発生していた部分である | 対象となる制度・国・条件が資料で示される |
| 問い合わせ窓口を実際に使っている | 窓口の維持そのものに費用がかかる | 年間の利用件数が記録として出てくる |
| サポートを外すと業務継続に直結する | 修正が届かなくなるリスクの引き受けである | 外した場合に何が止まるかが具体的に説明される |
| アドオンの追随作業が実際に発生している | 更新のたびに調査・改修・再テストが要る | 直近のバージョンアップ回数と作業実績が出てくる |
右列が「記録で確認できるか」に揃っていることに注目してください。「使っていないのでは」という疑いも、「必要だ」という主張も、記録があれば事実で検証できます。まず過去2年間の修正プログラムの適用実績と問い合わせ件数を出してもらってください。
見積書の「一式」を3つの層へ分離する5ステップ
ここが実務の中心です。冒頭で見た「一式」の1行を、標準のサポート料率とアドオン保守が分かれた形へ分解します。
ステップ1|請求書ではなく契約書一式を集める
必要なのは次の4点です。請求書だけでは分解できません。
- ソフトウェアの注文書(何を何本買ったかが書かれているもの)
- サポートに関する契約付属書・スケジュール(料率と分母が書かれているもの)
- 運用保守の契約書と業務仕様書(層2の範囲を定めたもの)
- アドオン開発時の納品物一覧または開発一覧(層3の対象を特定するもの)
手元に請求書しかない状態で料率の妥当性を議論することはできません。 ここが揃わないうちは、判定結果は「判断不能」です。
ステップ2|層1の「料率」と「分母」を特定する
契約付属書または注文書を開いて、次の2つを探します。
- 料率:パーセント表記の数字。契約時点の値であり、公開されているリスト価格とは異なる場合があります
- 分母:料率を掛ける対象の金額。ライセンスの購入金額なのか、割引後の金額なのか、対象に含まれるライセンスの範囲はどこまでか
分母に含まれるライセンスの一覧を、必ず紙またはデータで出してもらってください。この一覧が、後述する保守の見直しの出発点になります。
ステップ3|層2を作業・待機・実費に分ける
運用保守費を、人が動く作業、動いていないが備えている待機、外部への支払いの実費に分けます。この分け方の詳細はシステム保守見積書の見方で扱っているので、そちらの手順をそのまま適用してください。
ステップ4|層3を「対象資産」と「作業種別」で分ける
アドオン保守費を、次の2軸で分けてもらいます。
- 対象資産:どのアドオンが保守対象なのか。開発したが使っていないものが含まれていないか
- 作業種別:不具合の調査・改修、バージョンアップ追随、機能追加のどれに対する費用なのか
「バージョンアップ追随」が月額に含まれているのか、発生の都度別見積もりなのかは、必ず確認してください。ここが曖昧なまま数年たつと、更新の時期に想定外の見積もりが出てきます。
ステップ5|分離後の形で再提出してもらう
分けた結果を、次の形で1枚にまとめて出してもらいます。網掛けの行は記入例です。
| 層 | 項目 | 課金の単位 | 今年度金額 | 前年度金額 | 増減の理由 | 対象範囲 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| (記入例) 層1 | ソフトウェアサポート料 | 分母 × 料率 | 記入 | 記入 | 追加ライセンス2本の購入 | 対象ライセンス一覧を別紙で添付 |
| (記入例) 層3 | アドオン保守(更新追随) | 都度見積もり | 記入 | 記入 | 当年度は更新なし | 直近3年の発生実績を添付 |
| 層1 | ソフトウェアサポート料 | 分母 × 料率 | 対象ライセンス一覧 | |||
| 層2 | 運用保守(作業) | 月額または工数 | 対応時間帯・応答目標・作業上限 | |||
| 層2 | 運用保守(実費) | 実費 | 支払先と明細 | |||
| 層3 | アドオン保守(不具合対応) | 対象資産数または月額 | 対象アドオン一覧 | |||
| 層3 | アドオン保守(更新追随) | 都度見積もり/月額に含む | 直近の発生実績 |
読み方の目安はこうです。 「対象範囲」列が埋まらない行が1行でもあれば、その行は要確認以上。5行のうち2行以上が埋まらないなら、その見積書は現時点では比較にも交渉にも使えません。 埋まらなかった行を、次節の4状態に仕分けてください。
4状態への仕分け|説明済み/要確認/高リスク/判断不能
ステップ5の表が埋まったら、各行を次の4つに仕分けます。「高い/安い」ではなく、この4状態で評価してください。
| 状態 | 定義 | 該当する例 | 次の行動 |
|---|---|---|---|
| 説明済み | 課金単位・対象範囲・算定根拠が資料で確認できる | 料率と分母が契約付属書に書かれており、対象ライセンス一覧も出ている | そのまま継続。次回更新時に同じ確認を行う |
| 要確認 | 資料はあるが、対象範囲や増減の理由が読み取れない | アドオン保守が月額固定だが、対象アドオンの一覧が無い | 質問状を送り、書面で回答を得る |
| 高リスク | 判断に必要な条件が契約書に無く、将来の増額や打ち切りにつながりうる | 延長保守の選択肢が片方しか提示されていない/サポート内容の変更通知の扱いが不明 | 次回更新前に条項として追記させる |
| 判断不能 | 資料そのものが手元に無い | 契約付属書も注文書も見つからない | 資料の取り寄せを最優先。この状態では金額の議論をしない |
「判断不能」を「要確認」と混ぜないでください。 資料が無い状態と、資料はあるが読み取れない状態では、次にやることが違います。判断不能の行が1つでもあるうちは、値下げ交渉にも切り替え検討にも進めません。
SAP保守の更新案内で確認すべき危険信号
見積書の書かれ方そのものについては、前掲の記載例表を使ってください。ここでは見積書以外、つまり更新案内や担当者の説明に現れる信号を挙げます。次のどれかに当てはまる場合、その更新は「説明済み」には仕分けられません。
- 延長保守について、選んだ場合の金額しか提示されていない(選ばない場合と比較できない)
- 保守区分が変わった後(延長保守中・終了後)に新しい修正が届くかどうかが示されていない
- サポート内容の変更通知を受け取る窓口が社内で決まっていない
- 2026年7月の適合措置について、担当者から何の説明も受けていない
これらは「不当だ」という意味ではありません。判断に必要な情報が欠けているという意味です。
使っていないライセンスの保守をやめられるか
定率保守の分母は、多くの場合、保有しているライセンスに紐づきます。したがって「使っていないライセンスを減らせば保守費が下がるのでは」という発想は自然です。ここは2026年7月10日を境に前提が変わった領域なので、順を追って整理します。
何が制約になっていたのか
前掲のとおり、欧州委員会は未使用ライセンスの保守を解約できないようにしていたことと、全SAPオンプレミス製品について同一種別・同一価格条件の保守を求めていたことを、予備的に問題視した慣行として挙げています。
契約文書のレベルでも、その構造は確認できます。SAPが公開している Enterprise Support Schedule には、次の条項があります。
…any partial termination of SAP Enterprise Support or partial selection of SAP Enterprise Support by Licensee shall not be permitted in respect of any part of the Agreement, its appendices, schedules, addenda, order documents or this Schedule.
(同条は前段で、解約またはサポート種別の選択が契約下の全ライセンスに及ぶことを定めています。)
出典: SAP「SAP Enterprise Support Schedule」第6.3条。シンガポール版(enSG.v.8-2022)/オーストラリア版(enAU.v.8-2022)/インド版(enIN.v.8-2022)で同一文言。2026年8月19日取得。
同じスケジュールには、種別の切り替えと解約通知についての条項もあります。
Notwithstanding Licensee's rights under Section 6.1 … Licensee may select SAP Standard Support with three months' written notice to SAP … Any such selection shall apply to all Enterprise Support Solutions and shall be on SAP's then-current terms and conditions for SAP Standard Support, including without limitation pricing.
SAP Enterprise Support may be terminated by either party with three months' written notice (i) prior to the end of the Initial Term and (ii) thereafter, prior to the start of the following renewal period.
出典: 同スケジュール第6.2条および第6.1条。2026年8月19日取得。なお同スケジュールは前文で、個別のサポート契約が専属的に適用されるソフトウェアを対象外としています。
第6.2条の引用で中略した部分には、契約上の債務不履行がないことという条件と、切り替えを申し出られる時期の限定(当初期間の後に来る更新期間の開始前など)が含まれています。「3か月前に通知すればいつでも切り替えられる」という条項ではありません。
重要な適用条件が3つあります。 第一に、これらは上記3か国版の記載で、日本の契約書に同じ条項があるかは未確認です。第二に、この版は改定が予告されています(前掲「2026年7月10日に、SAPのオンプレミス保守の前提が変わった」)。第三に、自社契約に同様の条項がある場合、更新の3か月前を過ぎてから検討を始めると、その年度は動けなくなります。検討は更新日の半年前には始めてください。
原則|解約の請求は「分母の再割引」につながる
「では減らせば減った分だけ安くなるのか」という点について、SAP自身が公開ページで説明しています。
Customers that are not looking to realize the opportunities from the additional flexibility and innovation offered through the cloud and on-premise extension programs can abandon usage rights of certain existing software licenses and request the corresponding maintenance termination without purchasing new SAP on-premise or SAP Cloud solutions.
Such a request will lead to a rediscounting of the customer's individual maintenance base for the product family in which the reduction is requested. This will span across all contracts in which the product family is included.
This re-discounting will be done based on volume list price discounts only.
出典: 前掲 SAP「Strategy」ページ。2026年8月19日取得。同ページは続けて、契約条件が大きく異なりうるため、この選択肢の評価はSAPの担当チームと直接進める必要があるとしています。
読み取れることは3つです。
- 使用権を手放して、対応する保守の解約を請求すること自体はできる。新しい製品を買う必要はない
- ただしその請求は、その製品ファミリーについての「顧客個別の分母」の再割引を引き起こす。しかもその影響は、その製品ファミリーを含むすべての契約に及ぶ
- 再割引はボリュームリスト価格の割引のみに基づいて行われる
つまり「減らした分だけ比例して下がる」とは限りません。 量が減ればボリューム割引が効きにくくなり、残ったライセンスの単価が上がる方向に働きうるからです。ここが、棚卸しの期待値を最初に調整しておくべき理由です。
なお同ページには、オンプレミス拡張プログラムを使う場合について "The on-premise extension program requires the new maintenance resulting from the reallocation to, at a minimum, remain the same."(組み替えの結果生じる新しい保守料は、少なくとも従前と同額であることを要する)という条件も書かれています。構成を組み替える打ち手には、「保守料を下げない」ことが条件になっているものがある、ということです。
2026年7月以降に増えた選択肢
ここに、前章の適合措置が効いてきます。SAPの告知ページによれば、再割引を伴わない解約の道が新たに用意されました。
| 打ち手 | 内容 | 分母の再割引 |
|---|---|---|
| ランドスケープの分割 | 複数の Commercial Installation に分け、単位ごとに異なるサポートモデル・異なる提供事業者・サポート無しを選ぶ | 分割自体はライセンスの再価格設定を引き起こさないとされている |
| 単一指標契約 | 合意した単一指標で分母を算定。監査で使用が下回っていれば年あたり最大20%まで分母を減額 | ― (分母の算定方法そのものを変える) |
| 該当4ケースでの解約 | 顧客固有保守しか選べない製品/実装失敗/倒産・破産/2年間で10%以上の人員削減 | 再割引なしと明記されている |
| 従来の部分解約 | 使用権を手放して保守解約を請求する | 再割引あり(前節) |
打ち手が1つではなく複数あり、それぞれ分母への影響が違うというのが要点です。「解約したら再割引されるから無駄だ」と結論する前に、自社が上の3つのいずれかに当てはまらないかを確認してください。
ただし単一指標契約には「契約時の支払額が50万ユーロ超」という提供条件が明示されており、規模によっては選択肢に入りません。また上の4ケースには、SAP側の告知に書かれていない限定が欧州委員会側の発表に付いています(前掲「SAPが公表した主な適合措置」を参照)。自社が該当すると判断する前に、両方の原文と自社の状況を突き合わせてください。
他社の公開ポリシーに見る同種の設計
「減らしても比例して下がらない」という設計は、SAPだけのものではありません。オラクルが公開しているポリシーには、より踏み込んだ書き方があります。
When acquiring technical support, all licenses in any given license set must be supported under the same technical support service level ... You may not support a subset of licenses within a license set; the license set must be reduced by terminating any unsupported licenses. You will be required to document license terminations via a termination letter.
Pricing for support is based upon the level of support and the volume of licenses for which support is ordered. In the event that a subset of licenses on a single order is terminated or if the level of support is reduced, support for the remaining licenses on that license order will be priced at Oracle's list price for support in effect at the time of termination or reduction minus the applicable standard discount. Such support price will not exceed the previous support fees paid, plus any applicable country annual adjustments, for both the remaining licenses and the licenses being terminated or unsupported, and will not be reduced below the previous support fees paid for the licenses continuing to be supported.
出典: Oracle「Oracle Software Technical Support Policies」Matching Service Levels / Pricing Following Reduction of Licenses or Support Level の各項。Effective Date: 17-Aug-2026。2026年8月19日取得。
これはオラクルの製品ポリシーであり、SAPの契約条件ではありません。SAPの条件を推測する根拠には使えません。 ここに置くのは、同種の設計が複数のメーカーに存在することと、その書かれ方の粒度を示すためです。読み取れるのは次の4点です。
- 同じライセンスセットの中で、一部だけサポートを付けることはできない。外すならライセンス自体を解約する必要がある
- 一部を解約すると、残りは解約時点の定価から標準割引を引いた価格で再計算される
- 再計算後の価格は、継続するライセンスについて従来払っていた額を下回らない(下限がある)
- 同時に、解約分を含めた従来の総額(適用がある場合は国別の年次調整分を加えた額)を超えることもない(上限もある)
3番目が決定的です。上限と下限の両方が定められているため、「使っていない分を解約すれば、その分だけ保守費が減る」という単純な期待は、この設計の下では成り立ちません。
棚卸しは「手続の必須要件」でもある
以上を踏まえると、ライセンスの棚卸しの位置づけは「今年の保守費を下げるための作業」ではありません。次の4つのために行う作業です。
- どの打ち手が使えるかを判定するため。前節の4つの打ち手は、どれも「何がどれだけ使われているか」が分からなければ検討に入れません
- 次回の追加購入を止めるため。未使用が可視化されていれば増設の稟議を止められます。すでに払っている分は簡単には減らせなくても、これから増える分は止められます
- 契約更新のタイミングで構成を組み替えるため。更新時は再交渉ができる場面なので、そこに向けた材料になります
- 移行・刷新の判断材料にするため。使っていない機能を移行対象から外せることは、移行費用に直接効きます
この位置づけを社内で共有しておかないと、「棚卸ししたのに今年の請求が下がらなかった」という結果だけが残ります。 棚卸しは交渉の前提条件であって、交渉そのものではありません。
保守料が上がる条件は契約書のどこに書いてあるか
最後に、来年以降の増額に関する確認箇所を整理します。いずれも見る場所は、契約書の料金条項と対象範囲の定義です。
| 確認項目 | 判定のポイント |
|---|---|
| 値上げの条件 | 何をトリガーに上がるのか。物価指数連動か、メーカーの改定に連動か、協議によるか |
| 上限 | 1回あたり/年あたりの上限が書かれているか。書かれていなければ「高リスク」 |
| 通知期限 | 何か月前に通知されるか。解約通知の期限より後に値上げが通知される設計になっていないか |
| 対象が増えたときの扱い | ライセンスやアドオンが増えたときに自動で見直されるか |
3番目の「通知期限」が実務上いちばん重要です。値上げの通知が解約通知の期限より後に届く設計になっていると、値上げを知ったときには解約できる期間が過ぎているということが起こります。実際に、公開されている保守約款の中には次のように定めている例があります。
経済情勢の変化等による物価の大幅な変動等、必要かつ合理的理由がある場合、乙は、保守料金を改訂することができるものとする。なお、保守料金を変更する場合、乙は、甲に対し、変更後の価格を適用する3か月前までにこれを通知するものとし、甲が変更後の価格適用日までに解約手続きを行わない場合または変更後の価格適用日以降に本ソフトウェアを利用した場合、甲は当該変更後の価格に同意したものとみなす。なお、乙の甲に対する通知の方法等は、第23条の定めに従う。
出典: 前掲 株式会社エスアイ・システム「ソフトウェア保守サービス契約条項」2026年8月19日取得。
この例では3か月前の通知と、通知後に解約しなければ同意したとみなすという組み合わせになっています。これ自体は不当な設計ではありませんが、通知を見落とすと自動的に同意したことになるため、通知の受領窓口を社内で決めておく必要があります。引用の最後の一文が示すとおり、通知の方法は別の条項(この例では第23条)で定められているので、そちらも併せて確認してください。
自動更新と値上げ条件の詳しい読み方は、保守契約の自動更新と値上げ条件で扱う予定です。
ベンダーへそのまま送れる確認質問10問
ここまでの内容を、そのまま送れる文面にまとめました。宛先はSAP本体ではなく、契約と請求の窓口になっている導入パートナー・販売店・SIerを想定しています。文面中の(a)(b)(c)は、本記事の層1・層2・層3にそれぞれ対応します。
そのまま送れるメール文面
お世話になっております。
次年度の保守契約の検討にあたり、社内で費用構造を整理しております。恐れ入りますが、下記10点について書面またはメールでご回答いただけますでしょうか。金額の交渉が目的ではなく、社内で説明できる状態にすることが目的です。
1. 費用の層の切り分けについて 現在お支払いしている年間保守費用を、(a)ソフトウェアメーカーへのサポート料、(b)貴社による運用保守作業、(c)アドオン・カスタマイズ部分の保守、の3つに分けた内訳をご提示いただけますか。それぞれについて、金額の決まり方(定率か、月額固定か、工数か)も併せてお願いします。
2. サポート料の料率と算定基礎について (a)のサポート料について、適用されている料率と、その料率を掛ける算定基礎の金額をご教示ください。あわせて、算定基礎に含まれるライセンスの一覧(品目と数量)をご提示いただけますか。
3. 前年度との差分について 前年度と本年度で金額が変わっている項目があれば、変わった理由を項目ごとにご説明ください。ライセンスの追加によるものか、料率の改定によるものか、対象範囲の変更によるものかが分かる形でお願いします。
4. 延長保守の選択肢について 当社が使用している製品・バージョンについて、主流の保守がいつまで提供され、その後にどのような選択肢があるかをご教示ください。延長保守の選択肢がある場合は、選んだ場合と選ばなかった場合の両方の年間費用と、それぞれで受けられるサポートの内容を並べてご提示いただけますか。
5. 保守区分が変わった後の提供内容について 保守の区分が変わった後(延長保守の期間中、および延長保守の終了後)に、新しい修正プログラムの提供、セキュリティ上の問題への対応、制度変更への対応がそれぞれ継続されるかどうかを、区分ごとにご教示ください。
6. アドオンの保守対象と更新追随について (c)のアドオン保守について、保守対象となっているアドオンの一覧をご提示ください。あわせて、メーカーのバージョンアップに追随するための作業(影響調査・改修・再テスト)が月額に含まれるのか、発生の都度お見積もりになるのかをご教示ください。都度見積もりの場合は、直近3年間の発生実績(回数と金額)もお願いします。
7. 2026年7月の適合措置の当社への適用について SAPが2026年7月10日付で公表しているオンプレミス保守・サポートに関する適合措置について、当社の契約にどのように適用されるかをご教示ください。特に、ランドスケープの分割、単一指標契約、再割引を伴わない解約が可能となる場合の該当条件について、当社が対象となりうるかをご確認いただけますか。
8. 契約書類の改定版について 上記の適合措置に伴い、一般条件、注文書のテンプレート、サポートスケジュールが改定されると承知しております。当社の契約に適用される改定後の書類をご共有いただけますか。改定前後で条項が変わる箇所があれば、その一覧もお願いします。
9. 値上げ・解約・部分解約の条件について 保守料金の改定条件(何をトリガーに改定されるか、上限の有無、通知の時期と通知の方法)と、解約する場合の予告期間をご教示ください。あわせて、一部のライセンスまたは一部のアドオンについてのみ保守を終了することが可能かどうか、可能な場合に残りの費用がどう再計算されるかをご説明ください。
10. サポート内容の変更通知について 直近2年間に、サポートの提供範囲や提供内容に関する変更の通知が発行されていましたら、その写しをご共有ください。あわせて、今後こうした通知が発行される場合の連絡先窓口をご指定ください。
お忙しいところ恐れ入りますが、次回の契約更新の検討に必要なため、○月○日までにご回答いただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。
回答をどう読むか
回答が返ってきたら、内容の良し悪しより先に**「答えられたか/答えられなかったか」**で仕分けてください。
| 回答の状態 | 読み方 | 次の行動 |
|---|---|---|
| 資料の写しが添付されてきた | 説明済み。内容を4状態の表に転記できる | 表を埋めて社内共有する |
| 文章で説明されたが資料が無い | 要確認。口頭・メールの説明は更新時に引き継がれない | 契約書または付属書への記載を依頼する |
| 「メーカーの決めることなので分からない」 | 窓口の問題。契約当事者が分からないという状態は正常ではない | 誰に聞けば分かるのかを聞き、その連絡経路を確保する |
| 質問4で片方の見積もりしか出ない | 高リスク。比較できない状態のまま更新に進むことになる | 両方の提示を改めて依頼する |
| 質問7・8に回答が無い | 高リスク。2026年7月時点の前提が反映されていない可能性がある | 回答期限を再設定し、書面での回答を求める |
| 質問9で部分解約の可否が示されない | 高リスク。将来の削減の打ち手が事前に潰れている可能性がある | 契約書の該当条項の写しを求める |
回答が遅い、あるいは出てこないこと自体は、ベンダーが不誠実であることを意味しません。 メーカーとの契約構造上、販売店側でも即答できない項目は実際にあります。重要なのは、答えが出るまでの経路が確保できるかどうかです。
回答が揃ったあとの進め方
揃った回答は、次の順で使ってください。いきなり金額の交渉に入らないことが要点です。
- 4状態の表を完成させる。判断不能の行が残っていないかを確認する
- 高リスクの行から手をつける。金額ではなく、契約条項として書かせることを目標にする。特に、延長保守の選択肢の提示、部分解約の可否と再計算の方法、値上げ通知と解約通知の時期の関係の3つ
- 要確認の行を説明済みへ移す。資料が添付されれば移せます
- そのうえで金額を見る。ここまで来て初めて、層ごとに削減余地があるかが判断できます
- 継続という結論も許容する。検証の結果、現行の構成と費用が合理的だと分かることは普通にあります。その場合も、検証したという記録が次回の更新で効きます
保守費全体の妥当性を検証する枠組みはシステム保守費用の相場と妥当性にまとめてあります。この記事で分解した3つの層のうち、層2・層3の検証にはそちらの手順が使えます。
手元の見積書について、どの項目が説明済みでどの項目が要確認なのかを機械的に仕分けたい場合は、見積書の費用分解診断(登録不要)をお使いください。結果を見るまでメールアドレスの入力は不要です。ブラウザ上でテキストを抽出し、識別情報をマスクしてから診断します。
根拠資料と適用条件
本記事で使用した資料と、その適用範囲です。メーカーごと・国ごと・版ごとに前提が違うため、まとめて扱わないでください。
| 資料 | 発行 | データの年代 | 区分 | 本記事での使い方 | 適用上の注意 |
|---|---|---|---|---|---|
| SAP Enterprise Support(日本語版) | SAP / 2026年8月19日取得 | ページ本文に「2025年まで」と記載。更新日の表示は無し | 一次資料A(ただし2026年以降の値は未確認) | 22%というリスト価格の記載、当初期間・初回更新期間の定義、CPI連動の値上げ条件、切り替え時の追加料金と繰り越しCPI | 「新しいオンプレミス購入」の「リスト価格」であり、個別契約の金額ではない。何に対する22%か(分母)の定義は無い。「2025年まで」の期限つき記載のままであり、2026年以降の値は未確認 |
| Innovation Commitment for SAP S/4HANA until 2040 | SAP / 2026年8月19日取得 | 2020年2月4日の発表内容を掲載。更新日の表示は無し | 一次資料A | 主流保守の終了時期、延長保守の任意性・期間・2パーセントポイントのプレミアム、対象製品5点とエンハンスメントパッケージの限定、延長保守を選ばない場合の区分名 | ほぼ同一の内容がStrategyページにも掲載(冠詞・単複に微差あり。「同一文言」ではない)。顧客固有保守の提供内容は、参照先のSAP Note(52505番)がログイン必須のため未確認 |
| Strategy | SAP / 2026年8月19日取得 | 更新日の表示は無し | 一次資料A | 使用権の放棄と保守解約の請求、製品ファミリー単位の分母の再割引、ボリュームリスト価格割引のみに基づく再計算、オンプレミス拡張プログラムの「保守料は少なくとも同額」条件 | 具体的な再計算方法・製品ファミリーの定義は、同ページからリンクされた方針文書側にあり、当該文書には配布制限の表示があるため本記事では引用していない |
| SAP Maintenance & Support Commitments | SAP / 2026年8月19日取得 | 2026年7月10日発効。適用期間は決定から10年 | 一次資料A | 適用範囲(全世界・全オンプレミス製品)、Commercial Installation 単位でのサポート選択、Reinstatement Fee の全廃と Back-Maintenance の上限、当初期間の非再スタート、単一指標契約と年最大20%の分母減額、再割引なしで解約できる4ケース、申立先(社内調整組織・監視受託者) | 概要ページであり、実施条件は個別の方針文書側にある。それらの文書には「NDA Only」「複製禁止」等の配布制限の表示があるため、本記事では内容を引用していない。 同ページは一般条件・注文書テンプレート・各サポートスケジュールの改定版が今後公開されると告知しており、本記事が引用する v8-2022 のスケジュールは改定前の版 |
| 欧州委員会 プレスリリース IP/26/1554 | 欧州委員会 / 2026年8月19日取得 | Brussels, 9 July 2026 | 一次資料A | 予備的に問題視された4つの慣行、SAPが行う6項目、実装失敗における責任の所在の限定、人員削減時に削減できる割合、10年間・監視受託者 | 最終的な違反認定ではなく、SAPが提示した是正措置を委員会が受け入れて拘束力を持たせた決定(Regulation 1/2003 第9条1項)。委員会の発表日は2026年7月9日で、SAPが示す発効日(2026年7月10日)とは1日ずれる |
| SAP Enterprise Support Schedule(シンガポール版 enSG.v.8-2022 / オーストラリア版 enAU.v.8-2022 / インド版 enIN.v.8-2022) | SAP / 2026年8月19日取得 | v8-2022 | 一次資料A(公開契約付属文書) | 前文の対象外規定、第5条(料金は付属書・注文書で指定)、第6.1条(3か月前の書面通知による解約)、第6.2条(SAP Standard Support への切替)、第6.3条(部分解約の禁止)、第9.1条(サポート範囲の年次変更) | 3版の該当条項が同一文言であることを差分比較で確認済み。日本版(enJP)は公開ファイルとして確認できず、日本の契約書に同じ条項があるかは未確認。英語版のみ。かつ改定が予告された版であり、現行の条件とは異なる可能性がある |
| Oracle Software Technical Support Policies | Oracle / 2026年8月19日取得 | Effective Date: 17-Aug-2026(全33ページ) | 一次資料A | Matching Service Levels(同一ライセンスセット内で一部だけサポートを付けられない)、Pricing Following Reduction of Licenses or Support Level(減らした場合の再価格設定の上限と下限)、Sustaining Support に含まれないもの6項目 | オラクルの製品ポリシーであり、SAPの契約条件ではない。日本語版でもない。「保守の区分が変わると提供内容が変わる設計」「減らしたときの再価格設定の書かれ方」を示す例として使用しており、SAPの条件を推測する根拠としては使えない |
| ソフトウェア保守サービス契約条項 | 株式会社エスアイ・システム / 2026年8月19日取得 | 改定告知日 2025年9月12日・適用日 2025年10月15日 | 一次資料A(公開約款) | 改良・仕様変更・機能追加の除外、対象が増えた場合の保守料の見直し、価格改定の通知期間と同意みなし、通知方法の準拠条項 | 同社が開発した自社パッケージソフトウェアの保守約款。受託開発の個別保守契約ではない。約款本体のみを確認しており、同社が別途参照するサポートポリシー等は未確認 |
| 本記事の3層モデル、見積書の記載例と判定、定率保守の原資5項目、標準機能とアドオンの比較、4種類の追随作業、5ステップ、4状態の判定表、危険信号、確認質問10問 | koromo編集部 | — | 一般的な確認観点 | 見積書と契約書の読み方の整理 | 価格相場の根拠ではない。また、特定の契約に対する法的助言でもない。表中の項目名は一般化した例であり、特定の資料からの引用ではない |
本記事で扱わなかった論点
次の4点は、確認できる一次資料が得られなかったため、本記事では扱っていません。
- 2026年以降のSAP Enterprise Support のリスト価格。公式ページの記載が「2025年まで」のままであるため未確認です。数値の推測はしていません
- 2026年7月の適合措置の詳細な実施条件。SAPが公開している個別の方針文書(Landscape Split Program、Single Metric Program 等)には「NDA Only」「複製禁止」等の配布制限の表示があるもの、およびログインを要するものが含まれるため、概要ページと欧州委員会の発表に書かれている範囲のみを扱っています
- SAPのライセンス測定・年次報告の義務。SAPのシステム測定に関する公式ページを取得できなかったため、義務の有無や頻度については記載していません
- SAP保守費用の金額水準・相場。ライセンス構成と契約条件で決まる金額であり、外部から一般化できる水準を示す一次資料が得られませんでした。金額の目安は示していません
また、「SAP保守費の一定割合が使われていない権限への支払いである」という趣旨の説明を見かけることがありますが、その割合を裏づける一次資料を確認できなかったため、本記事では扱っていません。未使用ライセンスの論点については、割合ではなく、欧州委員会が予備的に問題視した慣行とSAPが公表した適合措置という形で扱っています。
なお本記事は、法的・税務的な最終判断を提供するものではありません。契約解釈、競争法上の措置の自社への当てはめ、ライセンス条件の適用については、それぞれの専門家およびメーカー・販売店にご確認ください。
よくある質問
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